ハリケーン「カトリーナ」による「アメリカの悲劇」は、ブッシュの故郷テキサスにビジネスブームを起こしている。ヒューストン港では、ニューオルリンズ(ルイジアナ)やパスカゴウラ(ミシシッピー)港間の船舶往来の急増に備えて、拡張突貫工事が始まっている。ルイジアナ、ミッシシッピー、アラバマの被災都市の銀行や企業が、どんどんヒューストンに本社や事務所を移し始めたためスペース不足になり、リース料がうなぎ登りになっている。

今までハワイやラスベガスの不動産ブームを羨んでいたテキサスに、突如天から幸運が降ってきたのである。チェイニー副大統領がCEOをしていたハリバートンの株価は、ハリケーン襲来と同時に52週来の最高値をつけてきた。浚渫、ゼネコン等のインフラ復興関連企業の株価は軒並み上昇している。

こうしたブッシュ政権お抱えの企業の他に、ブラックビジネスもこの世の春を迎えている。被災地には何十万人ものヒスパニック系(メキシコなど)労働者がいる。その多くは正式な移民手続きをしていない、いわば密入国者である。彼らはテキサスや他州への移動の恩恵は受けられないばかりか、見つかったら処罰されるから戦々恐々としている。

そこに目をつけて、彼らから膨大な金をとってメキシコやプエルトリコヘ送り届ける運び屋が大繁盛である。さらに困窮しているホームオーナーに土地家屋を担保にわずかな金を貸して、やがて担保はおろか身包みを剥ぎ取る悪質な「カーペットバッガー」(9月5日の「時事直言」参照)も大活躍している。

妙な話を耳にした。

2001年9月11日の同時多発テロの犠牲者は約4000人だった。今回のハリケーン犠牲者の数はまだ掴めていないが、ルイジアナ州知事によると優に1万人を超すという。9.11後、停止されていたNY株式市場が再開された初日、NY株価は680ドル下落してから一転して上昇に転じて上がり続けたのはご承知の通り。今回の犠牲者数は9.11の3倍以上になるから、株価も3倍以上に上がるというのである。

今回の犠牲者はほとんどが貧困層で税金を払うことなく、逆に福祉の恩恵にあずかっている者ばかり。死者が多ければそれだけ福祉予算が軽減され、一方政府の復興予算で民需が拡大する。マイナスは何もないと言うのである。今後の都市再建では、従来のような住民や環境団体の反対はなくなるから、スピーディーに効率的に事業が進む。地域経済は活性化し、大企業もブラックマーケットも高収益で何もかも最高だと言うのである。

なるほど、NYダウは上げている。9.11でアメリカは不況から一転して好況になったが、ちょうどグリーンスパンが警告を発しているように、住宅バブルの恐れが出てきて先行きが心配されていたところだ。ところが、またしても「ドカン」で、アメリカ経済の懸念が吹っ飛んだのである。

(2005年09月07日)