乗るか反るかの日米経済

FRBの選択

2005年9月20日、米連邦準備理事会(FRB)議長グリーン・スパンは連邦公開市場委員会(FOMC)で従来通り0.25%の利上げ継続を決めた。市場の予想は利上げ一時中止か継続かで別れていた。中止予想は大型ハリケーン「カトリーナ」が米経済に与える影響をFRBが配慮することを根拠とした。私は利上げ継続予想派。原油高騰、住宅ブーム過熱によるインフレ懸念で利上げ続行と見た。8月の米消費者物価はガソリン代高騰と便乗値上げが主な原因で前月比0.5%上昇した。この点をFRBが見逃すはずがないと考えた。さらにグリーン・スパン議長は来年1月末の辞任を表明していることから自己の名声のためにもインフレの余韻を残すことはあり得ない。これだけの必要・充分条件がそろったのだから私は利上げ中止はあり得ないと確信したのである。今回の11回目の利上げでフェデラルファンド(FF)金利目標は3.75%になった。1バーレル当たり70ドルに迫る原油高をそのまま価格に転嫁すればやがてガソリン価格はガロンあたり5ドルになりかねない。現在の3ドルでさえカリフォルニアの大学生に不登校が起きている。もはや原油コストの価格転嫁は限界に来ているのである。FF金利の中立レートは経験的に4.0%。そうなるとFRBの利上げ余地はあと一回(0.25%)。利上げで今まで消費を支えてきた住宅需要は沈下する、消費者物価上昇で消費減退、さらに生産コスト増による企業利益圧迫で景気にブレーキがかかる。さらにハリケーン被害復旧のための特別支出で財政赤字は膨らむ。利上げで国際浮遊資金を米国に呼び込み米国の赤字を補填しようとすればドル高になり米国製品の輸出競争力が落ちる。米国経済は今正に四面楚歌のジレンマに陥ろうとしている。

エネルギー危機がやってきた!

9月23日ワシントン(米)でG7(主要7カ国財務・中央銀行総裁会議)が開かれるが、原油価格が中心議題となった。これに先立つ9月20日、OPEC(原油輸出国機構)は現行の日産約2800万バーレル維持で増産を見送った。増産余地があるのはサウジだけだが、サウジの石油はガソリンに不向きだから増産しても売れない。売れないものの増産は無意味だから増産見送りになったのである。売れる中東原油の供給力は今や限界である。現在世界で1日8500万バーレルの原油が売られているが、これが供給力の限界である。日産わずか10万バーレルの増産に最低90日を要するのだから、日々増大する需要に供給はまったく追いつかないのである。さらに今年になって現在発見されている油田の埋蔵量を需要が上回ってしまった。どこの国でも今後原油確保が国益の中心になることは確実である。

米国のエネルギー自立戦略

米国は2001年9月11日の同時多発テロを梃子に戦争政策に切り替え、原油供給力の大半を占める中東・カスピ海周辺に政治力(軍事力)を展開している。米国は国内需要を充分満たすだけの原油埋蔵量を持っているにもかかわらず生産してこなかったのは不採算のためであった。バーレル60−70ドルは充分採算圏。すでにアラスカ、テキサス等の産油地で採掘事業が進んでいる。他国に依存しないエネルギー自立と他国のエネルギー支配、これが米国の国家戦略目標である。したがって原油価格の下落は必ずしも米国の国益ではない。同時多発テロから丁度4年目にハリケーン「カトリーナ」が米国を襲ったが、この不幸なハリケーンは20兆円とも言われる復興需要という実需をもたらしたのである。これが幸いにもインフレ要因の仮需要を埋めることになった。後一回しか残されていないFRBの利上げではインフレ阻止に不十分との懸念はハリケーン需要で一時的に払拭されたのである。アメリカはエネルギー自立と世界のエネルギー支配のため短期的なハリケーン需要が効いている内に長期的実需増の手を打たねばならない。そこへ日本の帝国石油が試掘準備中の尖閣諸島で中国が先回りして試掘を始めると同時に周辺海域に軍艦を配備した。正に中国の対日・対米軍事挑発である。中国は米国に戦争と言う名の公共投資の糸口を与えようとしている。これで日米経済の先行きが明るくなった。

(2005年09月22日号)