2006年以降の日米経済見通し 新たな日米経済相関関係が始まった。2006年からの日米経済は従来の流れから大きく変化する。米国経済の変化は、18年10ヶ月の長きにわたって米経済を指導してきたFRB(連邦準備理事会)グリーンスパン議長による2004年6月以来の利上げ政策の終焉と、2月から引き継いだ新議長バーナンキの新金融政策に拠ってもたらされる。また日本経済の変化は、日銀が続けてきた超金融緩和政策、特に日銀当座預金残を30−35兆円に保ち続けてきた量的緩和の解除(10兆円程度に引き下げる)に拠るところが大きい。米国で高金利政策が終わり、一方日本では量的金融緩和の出口到来で長期金利上昇という対照的な金利動向にもかかわらず、日米経済は見事に相関関係を維持することになる。 脱工業主義、ソフト大国を目指す米国にとっては経常赤字の増大は消費の伸びの結果であり、それはまた日本などの対米輸出国の経常黒字増を意味する。従って米国は経常赤字が増大すると、赤字補填のため増大する経常黒字国の資金を米国へ誘導する金融政策を採る。2003年の米国のイラク侵攻以来増大した軍事予算と大幅減税で米国の財政赤字は史上最高となった。また2003年までの減税と公共投資増、さらに低金利政策による景気回復と消費の伸びは経常赤字を過去最大にした。財政赤字と経常赤字のいわゆる「双子の赤字」の超増大である。 そこでグリーンスパンは2004年6月から利上げ政策に転じ、FF(フェデラルファンド)金利を徐々に引き上げていった。その結果日本や中国の貿易黒字国から米国へ資金が流れ、2005年末現在で米債券の44%が外資に保有されるまでに至った。FF金利の上昇で米国の短期金利が上昇したためインフレが押さえられる一方、グリーンスパンは巧みに流入海外資金を米国債券市場へ誘導したので米債価格が上昇し、逆に長期金利は利上げを始めた2004年6月の水準を下回るほどの低めに維持された。長期金利の下落の結果、住宅ブームが起こり、またこれが消費を伸ばす好循環になった。 グリーンスパンは双子の赤字の中で利上げを繰り返してインフレを抑えながら消費を伸ばして米経済を好況に導くという離れ技をやってのけたのである。今日の米経済の好況はグリーンスパンの金融政策の賜物である。私はこれを「グリーンスパンの置き土産」と呼んでいる。 さて利上げの打ち止めを目前に控え、新議長バーナンキの次なる政策が注目される。グリーンスパンの金融政策は巧みだったとはいえ基本的には外資依存型であった。しかしバーナンキ議長は国内設備投資重視型政策を採ると観る。米国の海外進出企業が2005年末までに海外所得や余剰金を米国に持ち帰って雇用増大や基礎技術研究開発のために投資した場合に限り35%の事業税を5.25%に減税することを決めたHomeland Investment Act(2004年施行)の効果で約50兆円が帰国した。バーナンキ議長はこの膨大な帰国資金を梃子に設備投資と雇用増大を計算に入れた政策を採ることになるだろう。 バーナンキ議長は遅くとも5月には高金利政策を終えなくてはならない。そうなると海外資金の流入は期待できず、むしろ流出が始まると考えられる。潤沢な海外資金の住宅抵当債券買いで支えられてきた米国住宅産業にもマイナスの影響を及ぼし、消費が減速する。米国の利上げ終了と、日本の量的金融緩和出口到来で日本の長期金利は上昇に転じ日米金利差は縮小し、ドル安・円高になる。ドル安は米国の輸出競争力を高め外需が増大、外需増大は住宅ブーム終焉による消費の減退分を補完する。一方日本では円高による輸入コストダウンが内需を拡大し、円高による輸出の減退分を補完する。このようにグリーンスパン後の日米経済は相互補完関係を維持することになる。米国経済は外需と設備投資で、日本経済は内需に支えられた消費で、しかも量的金融緩和解除で消費の過熱化を抑えながら好況を維持することになる。2006年と2007年、日米経済はなだらかな好況を維持する。 「民主党の体たらく」がポスト小泉を決めた! 自民党内での反小泉、非小泉は過半数を超える。一見親小泉でも胸襟を開けば非小泉が多い。先の選挙で小泉人気をYes or No(白黒)と鬼退治(刺客)作戦で演出した小泉ブレーン(I氏?)も敵無しでは機能しない。中国や韓国が元気がいいのは日本という敵が存在するからであり、日本を敵に追い込み続けているからである。先の選挙での小泉純一郎の敵は本能寺(身内)にあり、民主党は敵ではなかった。民主党が大敗したのは参議院で郵政民営化に賛成のくせに反対して小泉に衆院解散のチャンスを与えたから。「小泉か、反・非小泉か」を郵政民営化法案を利用して争った衆院選は自民党総裁選と同じである。すなわち民主党は国民の選択の「蚊帳の外」に置かれたのである。 郵政民営化という運動場で「赤勝て、白勝て」で観客(国民)が興奮しているのに、年金だの福祉だのと数多くの政策(運動場)を持ち込んだら観客(国民)に「うるさい、あっちへ行ってろ」と怒鳴られるのは当たり前。こんな「政治力学」も持ち合わせない民主党だから今回のような「体たらく」をしでかすのも当然。 森派を最大派閥にしたのは自民党総裁選を国民総選挙に変える小泉ブレーンの戦略に同調した民主党である。私は常日頃民主党は自民党に政策で対峙してはならないと言い続けてきた。政策と主張を全く異にする寄り合い所帯、野合の民主党が自民に勝てる道は、自民党がボロを出すのを待つか、あら探ししかない。政策と言う「理性」ではなく自民党のボロを「国民感情」に訴える手しかないのだ。だから今回のメール事件は筋としては正しかったが、幼稚な指導体制の民主党では無理だった。 さて、私は森氏は大した政治家だと思っている。郵政民営化選挙は党内派閥革命(小泉チルドレン投入)による森派の勝利と、党外の敵民主党を叩く「一石二鳥」だった。 今回のメール事件はポスト小泉として、(安倍氏の先行を諌めながら)森氏の頭にある人物の可能性が一歩進んだ。次回の選挙は郵政民営化選挙でも党内猿蟹合戦でもない。野党との戦いになる。従って次期選挙は敵が本能寺にあった時だけ通用した刺客作戦の「あだ花」、小泉チルドレン80人は無いと考えなくてはならない。 いまさら「改革なくして日本再生なし」も通用しない。国民は冷静になってきている。冷静と言えば日中、日韓関係が冷静だと思っている国民は一人もいない。日本の9月を意識して中国と韓国が一段と小泉首相の靖国参拝批判を高めてきた。中韓が靖国批判を強めれば小泉型中韓強硬論者の安倍の人気が強まることを中韓は知っている。「敵なくして政治なし」だから。中国の対日強硬姿勢は安倍人気を煽り親中派の立場を弱めるのである。 9月まで民主党のあら探しで攻め抜かれると(80マイナスの)自民党は安倍人気で戦わざるを得なかったが、今回のメール事件で民主党は事実上対自民戦闘能力を失ったので次期選挙で自民党は敵なしとなる。民主党という外の敵が消えた今、もはや安倍人気は不要になった。中国が本音では望まぬが親中派の人物にチャンスが訪れたのである。親中派なら日中関係も(表向き)好転し日中関係は感情的関係から「冷静な綱引き関係」に変わる。これこそアメリカの望むところである。今回のメール事件は、反・非小泉に支持される、しかも森派の親中派人物をポスト小泉に一歩近づけた点、正に「一石二鳥」と言える。森氏の読みは冴えている!
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