第352号  (2006年04月10日 国会議員号)

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デフレ脱却から世界的インフレへ一足飛び

3月8―9日の日銀金融政策決定会合で、長年継続された量的金融緩和が解除された。しばらくゼロ金利を継続するとは言え、中央銀行としての日銀が金利裁量権による物価ならびに景気調整機能の独立性を復活したことは間違いない。金利という経済の歯車の動きを調整する機能から5年以上も遠ざかっていた日銀の復権である。3月8―9日は、今まで市場から見向きもされなかった日銀にとって、待ちに待った日であった。国家経済運営における財務、金融当局からの市場主導権の奪還でもあった。今後は市場の目は日銀に向けられる。

量的金融緩和後、初の日銀金融政策決定会合が4月10−11日に開かれ、福井日銀総裁の会見が11日午後3時半に予定されている。日銀理事の中には、先の量的金融緩和解除発表以来の異常な株価上昇に警戒心を持つ者も多いと聞く。一方、市場では長期金利が急上昇している。長期金利の指標となっている新発10年物国債利回りが一時1.9%に上昇(現在1.875%)した。長期金利の上昇は日本だけではない。米国債10年物は6日に4.905%で3年9カ月ぶりの上昇、ドイツ10年物国債も3.86%と1年5か月ぶりの高水準になっている。日米欧の金利が一斉に上昇に転じているのである。

そこへ金と原油の高騰が再燃してきた。金相場はNY先物市場で25年3か月ぶりに1オンス600ドル台(604ドル)をつけ、原油も本年2月以来の高値1バーレル68ドルになっている。金と原油の高騰は明らかにインフレのサインである。


異常な日本の株価

量的緩和発表から5週連続で日本の株価は高騰した。1万6500円から1万7500円まで一足飛びである。こうした異常な株価高騰の中で、今日と明日の会合で日銀はどんなメッセージを市場に発するかが注目される。今回の株価高騰をデフレ脱却確認と企業収益向上とアナリストは説明するが、そのことは既に3月9日の量的金融緩和解除時に織り込み済みである。

今回の株価高騰は、経済的根拠を全く欠いている。テクニカルに見れば、明らかに「ニッケイ先物主導」によって演出されたものである。いわば作られた相場だったのである。あえて言うなら、今週日銀が発表すると思われるゼロ金利解除前倒し宣言を予想して、ヘッジファンド筋がゼロ金利メリットの最後のチャンスに挑戦した結果と言ってもいい。わずかな資金(225先物の保証金は一枚につき50万円弱)で先物市場の相場を吊り上げながら現物市場では資金を3倍にして売りまくるいつもの手法である。

その前提は、世界的インフレシグナル、世界的金利高、世界的雇用増大、世界的賃金高、等々からの日米欧の財政金融政策当局の引き締め政策続行であり、その結果として既にアメリカで始まっている(一時的)世界株安である。投機筋が狡猾なのは「5月株安」を常に口にしながら上げてきた点である。日本では理由にもならない織り込み済みの楽観情報を飽きもせず喧伝して、投機筋の戦略を支援してきた嫌いがある。

5週かかった上げを元の木阿弥にするには5日もかからない。浮かれ気分を捨てて、今こそ冷静になることを投資家諸氏に望みたい。さて、アメリカも(Good Friday)日本も(5月)連休直前。「世界的株価急落」も直前(?)。利益確定、レジャー資金確保が先では?



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)