第360号  (2006年06月12日号)

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バーナンキ新FRB議長の悩み

5月に入ってからの世界的株安の直接的原因となったのは、新FRB議長バーナンキをはじめ地方都市の連銀総裁たちが口をそろえて「インフレ懸念発言」を繰り返したからである。さらに拍車をかけたのが、日銀の超金融緩和政策解消による世界の投機資金許容リスクの増大で、世界市場からリスクマネーが撤退したことである。また、アメリカの経常赤字が史上最大になりつつある点も市場はネガティブに受け止めた。

今、まるで流行歌になっているアメリカのインフレ懸念は、実はミスリーディング(間違った誘導)である。消費が落ちているのに物価だけ上がっているからインフレだと言えば確かに説得力はある。しかし消費者が高級志向に変わったことを忘れてはならない。量から質への変化が進んでいる。消費は横ばい、または下落でも、消費単価が上昇すれば消費者物価指数は上がる。

バーナンキ議長一人でなく、他のFRB理事や連銀総裁たちがインフレ懸念を連発しているのには政治的要因が加味されている。バーナンキは学者で、かつてのグリーンスパンのようなカリスマ性はないから、その他大勢の責任者たちと市場へのメッセージを合唱するのである。これが市場からの不信を招いて、さらに株価にとってマイナス要因となる。

金融・財政政策にとって最も重要なことは経済成長である。資本主義経済においては「成長なくして経済なし」である。従ってバーナンキたちのインフレ合唱で利上げを正当化し、6月末に本当に利上げをしたなら、間違いなくアメリカ経済を減速させる。本末転倒である。バーナンキの本音は実際に利上げすることなしに、リップサービスで市場の長短金利を5%前後に安定させようと考えているのではないか。

ブッシュがバーナンキに課した政治的配慮とは、中間選挙(11月)である。ブッシュにとっては、選挙前に株が下落するより、投票日に向けて上げ続けてくれたほうがいい。ありもしないインフレ懸念合唱でダウを下げるだけ下げておいて、11月に向けて上げ続ければ政権にとって都合がいい。真面目なバーナンキの悩みが言葉尻に出ているではないか。

もう一つ忘れてはならない見事なアメリカの戦略は、巨大なリスクマネーが市場から撤退すると投資先の通貨でドルを買うことになる点。世界の巨大な投機資金をアメリカへ引き付けておいて、来るべき大相場で主導権を握ろうとしている。自らの陣営からブッシュ批判材料をリークする戦略と同じである。民主党の強敵ヒラリーはすでにその餌食になった。

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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)