第362号  (2006年06月20日 国会議員号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
e-mailアドレス info@chokugen.com

北朝鮮テポドン2号

日本で「何故今、何のため?」が論じられている。主な論調は政治カード。北朝鮮のテポドン発射断念と引き換えに今アメリカが課している金融制裁(北朝鮮の海外銀行口座凍結)の解除を求めるというもの。しかし実際テポドンを発射すれば、アメリカは制裁を強めるから、「馬鹿げた挑戦」「意味がない」が一般的。麻生外務大臣はシーファー駐日米大使と協議、テポドンを発射した場合は船舶寄航制限や国連への提訴などの措置をとるが、アメリカの軍事制裁はないという。

先ずここでアメリカ、日本、北朝鮮の安全保障上のStatus(立場)を明確にしておこう。

「北朝鮮が核開発をしていること」「核弾頭を(金正日)は宣言し、その事実を北朝鮮を訪問したアメリカの特使が確認している。従って日本に対する北朝鮮の「核の脅威」は現実であり、この脅威に対する日本の安全保障は日米安保に依存する以外にないのが現状。

アメリカは北朝鮮に、核開発と核戦力の存在を認めた上で、「核の廃絶」を求めている。そしてその交渉は6カ国協議で行われている。アメリカのブッシュ大統領もライス国務長官も繰り返し「アメリカは北朝鮮に対して武力行使はしない」と声明している。

北朝鮮の脅威から安全を守ってくれる唯一の国であるアメリカが北朝鮮に武力行使をしないのなら北の核の脅威から日本の安全は保障されず、いわば日本の安全を保障してきた「アメリカの核の傘」は消滅したも同然である。今回麻生外務大臣にシーファー駐日大使が「アメリカは軍事的制裁は考えない」と言った言葉は「アメリカは北朝鮮の対日脅威を放置する」という意思表示である。北朝鮮が困窮しているのはアメリカの金融制裁である。アメリカにこの制裁を解除させるには北朝鮮は「アメリカの国益に資する」必要がある。

1998年8月31日、日本の三陸沖の上空をテポドン1号が通過したが、実はアメリカの国益に大きく貢献した。当時小渕内閣は8月26日の閣議で、日米台で推進するTMD(戦略ミサイル防衛)基地選定のための調査費9億8千万円の拠出を却下した。中国との関係(承認すれば中国は猛反対する)を考慮したからである。TMD構築には総額5兆円に及ぶ大防衛予算を要する。アメリカは日本が調査費を却下したことはアメリカの最重要軍事戦略TMDに日本が乗ってこないものと受け止めた。私も当時米国の主要新聞で「日本、TMD脱退か?」の見出し記事を見た。アメリカにしてみると「TMDなしに対中軍事戦略なし」である。

北朝鮮はこうしたタイミングを逃さず、閣議の5日後テポドンを日本に向けて発射したのである。日本は大騒ぎになり、(今日のように)アメリカに情報を求めた。するとアメリカは「北朝鮮は日本に向けて軍事ミサイルを発射した」と報告すると同時に、TMD調査費を閣議で否認したことに遺憾の意を表した。あわてた小渕首相は9月2日の閣議で調査費を了承すると、アメリカは「あれは軍事衛星ではなく人工衛星の実験らしい」と言って来たのである。

米軍再編成の一環で国内外の米軍施設の統廃合費用でアメリカは日本に数兆円の負担を要求しているが、日本はなかなか応じない。今後TMDの5兆円の負担問題も目前である。北朝鮮の脅威に晒されていながら無感覚の平和ボケ日本に何が必要か、またアメリカの対日予算請求をスムーズに通すにはどうしたらいいのか?北朝鮮がアメリカの国益に資する最善の戦略、それが今回のテポドン2号発射である。アメリカにしてみれば対北金融制裁の効果がでてきたことなのだ。

もう一度「北朝鮮なくしてアメリカのアジア軍事覇権なし」を銘記しておくことだ。



※「時事直言」の文章および文中記事の引用ご希望の方は、事前にサンラ・ワールド株式会社 増田俊男事務局(TEL 03-3955-2121)までお知らせ下さい。

ご意見ご感想は:

E-mail:info@sunraworld.com

発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)