ポスト小泉の役割 日米両国は「政経同盟国」と言ってもいいだろう。政治では「日米安保」、経済では「日米投資イニシアティブ」が根底にある。日米関係はブッシュ―小泉政権によって新たな局面を迎えることになった。それは日米同盟が実行プログラムへと進展してきたことである。小泉内閣は自衛隊の防衛指針を「国連協調」から「国際協力」重視に変更した。日本はアメリカの対イラク先制攻撃に反対の意向であった国連に反して、アメリカ支持の「有志連合」に組した。自衛隊を国連軍としてではなく、有志連合軍としてイラクに派兵したのである。 自衛隊の防衛指針は国際協力の名の下に、中ロが反対するとアメリカのために機能しない国連から対アメリカ単独協力へ変更されたのである。さらに自衛隊の軍事行動指針は日米軍事戦略共有(新防衛大綱)の名の下に、完全にアメリカの米軍再編成に整合された。加えて本年7月4日(アメリカ時間・アメリカの独立記念日)の北朝鮮ミサイル発射をテコに、日米ミサイル防衛網の前倒し強化などで、日米軍事同盟は一挙に実戦態勢にまで発展する運びとなってきたのである。 一方、経済では(前述)「日米投資イニシアティブ」の合意に基づくアメリカの要求を実行に移すために必要なすべての法整備を小泉内閣は完了した。米国資本の対日投資が完全に自由化されると同時に、三角併合法に伴う商法改正で対日企業買収や統合は圧倒的アメリカ優位で進められる態勢となった(2007年実効)。郵政民営化法も成立し、「国民安心の根幹」であった「郵貯・簡保」という「貯金箱」も叩き壊され「民営化」「市場化」の名の下にアメリカ資本コントロール下のリスク市場に移管されることになった(2007年実効)。 では、アメリカの政治・経済指針は何だろうか。それは「ドル防衛」と「ドル市場拡大」以外の何物でもない。アメリカは、世界経済が1970年代以降供給不足から「供給過剰時代」に移り、さらにこの傾向が永遠に続くとの判断から、世界経済の主導権を握るために消費大国(消費者は王様だから)を経済指針と決めた。消費大国アメリカの恒常的債務増大化からドル崩壊を守っているのはドル基軸制である。今日、世界の貿易取引の大半はドル通貨で行われ、新たな世界貿易取引は新たなドル需要を創造し、アメリカは新たなドル需要分だけドルを発行して累積赤字を償却する。これが今日のドル基軸制資本主義体制の基本である。すなわち、世界がアメリカの借金返済のために富の創造を続ける体制である。今はまさにパックス・アメリカーナ時代である。 アメリカの政治指針である「自由の拡大」とは、今日の資本主義体制を守りながら拡大すること、ドル需要とドル市場を拡大することに他ならない。また、このアメリカの指針に反する政治・経済活動と体制はアメリカの敵であり、アメリカの安全に対するリスクである。その意味で今世紀の「アメリカのリスクは中国」である。中国はロシアと共にドルを市場から駆逐する指針を打ち出している(上海協力機構など)。また今後、中国はアメリカをはるかに陵駕する消費大国になって、世界経済の主導権がアメリカから中国に移る可能性がある。 今日の中国はアメリカにとって政治的にはリスク大国であるが、一方成長を続ける中国経済はアメリカや日本経済にとって欠かせない現実がある。したがってアメリカの当面の対中総合戦略の基本は、「豚は肥らせて喰え!」となる。豚をどこまで肥らせるか、いつ心臓麻痺を起こさせるか、そのために何を日本にさせるか、いつ中国経済を共産党一極集中型権力支配からマネー支配(ドル支配)に変えるか…。 アメリカの対中政治・経済行動指針は既に決定され、いま動き始めている。安倍晋三の政治理念は基本的にアメリカの政治戦略に一致している。今後の課題は、日米軍事同盟体制の中で日本はアメリカの戦略に沿ってどのように中国経済をバブル化からバブル崩壊へ誘導したらいいのか。そのための「表向きの対中経済政策」をどうするかである。
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