第424 国会議員号  (2007年8月06日号)

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自民党の運命を決する「最後の王道」

私は、8月1日の本稿で、安倍首相をかなり乱暴な表現で非難したが、それは安倍首相が「国民の声をしっかり受け止めながら責任を果たしていきたい」と言って安倍内閣続行を決めたからだ。「国民の声」とは、国民が「安倍内閣にノーを突きつけた」ことではなかったのか。「国民の声をしっかり受け止めること」がどうして安倍内閣続行になるのかと追求した。

「後任がいないから」「党が混乱するから」といった言い訳は、所詮「自民党の党内事情」であって、国民の声には関わりのないこと。国民に関わりのない要因で続行を決めたのだから、安倍首相と自民党は「国民の声を無視」したことになり、民主主義と論理に悖る(もとる)のである。安倍首相は、中川幹事長と青木参議院議員会長が責任を取って辞任した「責任」や、赤城農相に責任を取らせて辞任させた「責任」と、ご自分の「……責任を果たしていきたい」と言って辞任せず続行する「責任」の「違い」を世界にどう説明するのか。

安倍首相は、同じ内閣での総理の責任と他の閣僚や執行部の責任の本質を正反対なものにしている。安倍晋三家の辞書には、「自分の責任とは、自分以外の者の責任であって、自分の責任ではない」とでも書いてあるのだろうか。再び私は自民党に強調したい。国民の審判に答えるには「総裁選」しかないと。党内に身を挺して総裁選を求めて立ち上がる者はいないのかと再び問いたい。


人心一新

 自民党は、株主総会で現経営陣が信任されなかったため「経営陣の一新」を余儀なくされた会社と同じである。経営陣が責任を取るに際して、真っ先に辞任するのはCEO(最高責任者)。CEOの辞任によって、総会で新CEOと他の役員を選考するのが常道。株主総会で経営陣が信任されなかったにも拘らず、CEOが居座るような会社を市場は許さない。そんな会社の株は大暴落して会社は市場から消え去るのみ。

自民党に課せられた人心一新の基本的条件の第一は安倍首相の辞任なのに、辞任するはずの安倍首相が内閣改造をするのだから何をかいわんやである。民主主義はおろか、国民を愚弄するもはなはだしいと言わざるを得ない。先進諸国は、「安倍首相は国民の声をしっかり受け止めると言いながら、国民の意志と正反対のことをしている」であるとか、「まるで居直りだ」など(公表はしないものの)安倍氏を軽蔑している。総じて、日本は民主主義の危機に陥ろうとしていると評している。

 同盟国アメリカの国務省高官でさえ「参院選の勝者に賞賛の言葉を送りたい」と述べている。暗に「安倍さんお辞めなさい」と言っているのである。国際信用は落ちるばかり、ニッケイ平均も下がるばかり!


再び、総裁選のすすめ

自民党はなぜ「総裁選挙」をしないのだろうか? 数の上では少数派、永田町の原理では勝つはずのなかった小泉純一郎氏が、なぜ国民から高支持率を得ながら長期政権を担えたのか考えてもらいたい。自民党の総裁選に、まるで総選挙のように、国民を上手に巻き込んだからではなかったか。総裁選中のマスコミは自民党総裁選で持ちきりとなり、民主党は完全に「蚊帳の外」へ追いやられてしまっていた。「自民党が参院選で負けたことを国民に忘れてもらい、自民党に新たな希望を持ってもらう唯一の選択は総裁選でしかない」!自民党が今総裁選に打って出ることを一番怖れているのが、他ならぬ民主党である。

自民党はこのまま「自滅の道」に落ち込むのか、総裁選を通してもう一度国民に信を問うのか、今こそ決断すべきである。自民党の運命を決める期限は刻々と迫っている。決断は今だ! 反主流派の小泉純一郎氏を支えて全国から立ち上がった地方の自民党員諸君、本当にこれでいいのか。全自民党員は今こそ正しいことをする勇気と誇りを持って欲しい。政権担当能力のない民主党に国民が過大な期待を寄せる前に、自民党は決断すべきだ……日本のために。


このままだと……

このまま事態が推移すると、日本が取り返しのつかないことになるのは必至である。民主党小沢代表は、いくらシーファー駐日大使に説得されても、テロ特措法延長には応じることはない。もし応じたら、それこそ安倍首相の延命(続行)と同じ国民愚弄になるからだ。秋の国会で、もしテロ特措法延長不可となったら、日米同盟関係は危機に陥る。衆議院可決、参議院否決、衆議院差し戻しで時間切れになる可能性が高い。起こり得るのは衆参両院解散、総選挙だろう。 

さらに(野党にも相当困る者も出るが)もし野党が国政調査権行使で、5000万件を超える年金データの受給金額ではなく、データを消された国民が数十年間にわたって「国に預けた総金額(約50兆円)を誰がどう処理した(使った)かが追及されたらどうなるか。秋の国会は、日米同盟、安保、憲法改正問題、さらに、初め(戦前)から「国民に返さぬことが前提であった公的年金」(5000万件データ破棄の理由)の真相が国会で明らかになるだろう。

この日本と自民党最大の危機に、安倍と安倍が選ぶ閣僚たちでどうして戦えるというのか。自民党の諸君、いま日本と自民党がどんな危機に直面しているのか分かっているのだろうか。もはや日本の根幹に関わる秋の「総選挙」を避けることはできないだろう。今度は、民主党といえども決して有利ではない。民主党は日米同盟、日米安保、憲法に対する統一見解は持ち得ないばかりか、「年金の真実」でも55年体制を経験した部分(馴れ合い)があるので「やぶへび」になる可能性が高い。自民党の「江戸の敵は長崎で」は有利に働くだろうが、忘れてはならないことは、安倍晋三が地に落とした「国際信用」。秋の総選挙は国際信用の回復も課せられている。繰り返すが、このまま安倍続行で秋の国会を迎えることは、日本と自民党にとって最悪の選択であることだけは確かである。









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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)