第432  国会議員号  (2007年9月25日号)

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首相の運・不運

小泉の幸運

「小泉氏は運がよかった」と誰でも認める。

 「運は自ら作るもの」と言うが、一国のリーダーの運・不運は世界の政治・経済情勢に依るところが大きい。クリントン政権末期のITバブル崩壊でリセッションの危機が刻々と迫り、一方アメリカの国際発言力が極度に落ち込んでいた時に政権に就いたブッシュは、9・11を機に一気に経済再建とアメリカの世界一極支配を目掛けて立ち上がった。アメリカ経済再建に当たっては、日本の全面的協力が必要であった。

小泉「構造改革」による日本の聖域(農業、医療、教育など)をも含めた(M&Aを容易にする)市場参入と「郵政民営化」で代表される日本の金融市場開放がMust(なくてはならないもの)であった。政府日銀もアメリカの資金需要に合わせて「市場介入」の名で30兆円を超える資金を供給しアメリカの景気浮上を支えた。またアメリカのテロとの戦争政策にも小泉政権はテロ特措法やイラク特措法で、野党や与党の一部の反対を押し切ってブッシュを支えた。北朝鮮問題では日本はブッシュ政権の(タカ派)強硬路線を先取りして日本独自の経済制裁を課したばかりか、北朝鮮のミサイル発射や核実験に対する制裁ではアメリカと共に国連を主導した。そして5年を超える小泉首相の任期が終わるまで、ブッシュ政権は国際政治・経済の指針を変えることをしなかった。小泉政権時代は、正に日米同盟黄金時代であった。


安倍首相の不運

それに引き換え、安倍氏は「全く不運であった」。そもそも、安倍氏が小泉路線を踏襲しければならなかったことが不運の始まりであった。久間防衛大臣の「アメリカのイラク攻撃は間違いであった」や「日本に対するアメリカの軍事再編成への協力要請は横柄だ」などの発言は日米同盟を傷つけた。また、北朝鮮に対する安倍政権(麻生外務大臣)の外交政策も「拉致の進展なしに経済協力なし」の一点張りで、対北朝鮮強硬路線から宥和路線に転換したアメリカの路線と全く相容れなかった。経済政策においても、アメリカが日銀に期待していた本年1月18日の利上げを葬ったことで今日の信用収縮問題の原因を作ってしまった。小泉政権終了後のアメリカの内外政策転換が安倍氏を不運にしたのであった。

しかし本稿での安倍政権の総括で述べたように、安倍政権は中国との関係改善、長年懸案であった社会保険庁の国民年金問題の解決、安倍氏の劇的な辞任による自民党挙党体制確立など成果をあげている。今考えてみれば不運な安倍氏は、次期政権に幸運をもたらすための架け橋であった。

安倍政権のさらなる不幸は、世界市場の大混乱期に直面したこと。小泉政権下では、アメリカ経済は内需、日本経済は外需依存で好況を持続した。ところが安倍政権になるとアメリカの内需を支えてきた住宅バブルが崩壊し、次なる景気牽引車を模索する間、市場は大混乱を余儀なくされた。安倍氏が政権を投げ出した直後の9月18日、FRBは大胆にもFF金利と公定歩合を同時に0.5%も下げたので、株価が急騰すると同時に円高、ドル安の方向が明確になった。これで私が年初から予測した通りの円高、ドル安、株高でアメリカ経済は外需、日本経済は内需依存で好況持続の方向が決まったのである。


福田氏は幸運である

福田氏は日米経済の方向性が決まり、アメリカの外交政策の大転換が明確になってから首相になるのだから、まるで用意されたレールの上を走るようなものである。安倍氏が参院選で敗れた原因の一つに「格差問題」があった。2002年から日本経済はいざなぎ景気を凌駕するほどの好況を持続したが、国民の所得は低迷したままだった。この事実が、参院選で自民党は大企業優先で庶民を無視しているという野党の主張を正当化してしまった。

安倍氏と自民党の不幸は、2002年以来の日本経済の好況が外需依存であった点にある。今後アメリカ経済が外需依存となるとアメリカの輸出産業は販売促進、宣伝費等々を日本に投下する。一方日本の輸出産業は内需拡大を迫られるから国内に資金投下する。アメリカがそうであったように、内需依存型好況では国民が好況を実感できるが、今までの日本のように外需依存型では国民は好況を実感できない。間違いなく10月から日本経済は内需依存型になるから、今後日本国民は徐々に好況を肌で感じることになる。したがって、福田政権は政策ではなく景気の構造変化で国民所得格差問題を解決できる。これも福田氏の幸運の一つである。

参院選での民主党の大勝利は、安倍氏が不運であった結果であり、また安倍政権の拒否であって決して自民党の否定ではない。国民が小沢民主党政権を期待しているというのは間違いである。小沢民主党に政権担当能力も資格もない証拠は、テロ特措法の延長にも関連新法にも反対をしていることを見ればわかる。「何でも反対」、「反対のための反対」である。


今後小沢民主は不運となる

民主党には国民が政権を夢見た「エリート集団」が存在した。岡田氏、前原氏たちのグループである。民主党は、分裂して自然消滅一歩手前だった小沢自由党を受け入れ、挙句の果て小沢氏の政治力バブルで乗っ取られた。小沢氏の政治感覚の拙さは、次の内閣の外務大臣にかつての社会党左派の代表格・鉢呂吉雄を任命したことが証明している。安全保障政策、憲法問題、経済政策、教育、年金等々すべての国の基本問題で党内意見が割れている民主党は、所詮は野合政党。「民意が民主党を選んだ」(鳩山由紀夫氏)など誤解も甚だしい。民意は、自民党を罰するのに民主党を利用したに過ぎない。国民が注目し、期待しているのは自民党であって小沢民主党ではない。

時間が経てば小沢政治力バブルは消え去る。民主党のエリートグループの運命は、小沢落としのクーデターか離党して自民党に移籍するまでの会派作りかのどちらかだ。小沢従属なら将来はない。幸運に恵まれた福田政権誕生による自民党の挙党体制確立こそが国民が期待した参院選の成果である。福田氏はアメリカの政策集団に太いパイプを持ちながら、また親中派であるともいわれる。均衡の取れた安定感がある。福田政権誕生を期に、薄っぺらな劇場政治はここらで終わりにしてもらいたいものだ。今後の片肺国会の運営は、すべての法案を通常より60日早く参院に提出し、参院否決後衆院で再決議することを国会ルールにすればいいのではないだろうか。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)