安倍晋三内閣の総括 アメリカの国益には…… 2004年に閣議決定された自衛隊新防衛大綱にも反映されているように、アメリカの対日安全政策最大の目標は、アメリカの軍事基本政策である米軍再編成への日本の協力であった。2005年9月13日〜19日の6カ国協議の会期中、アメリカは偽タバコ、米ドル偽造等の理由で全米の銀行にマカオのBDA(バンコ・デルタ・アジア)との取引を禁止した。この直後の23日、これを受けてマカオ政府が北朝鮮資金約2500万ドル(約30億円)を凍結したため、北朝鮮の主権を認める代わりに北朝鮮は暫時核施設を廃絶することを基本とした6カ国協議合意はご破算となった。 こうしたアメリカの金融制裁圧力は、北朝鮮を2006年7月のミサイル発射、10月の核実験に追いやる結果となった。これに対し小泉政権の官房長官安倍晋三は、北朝鮮に率先して独自の経済制裁を加えると同時に、アメリカのタカ派でネオコンの代表格であるボルトン米国連大使(当時)と連携し、ミサイル発射に対しては北朝鮮非難決議、核実験には経済制裁決議と国連安保理をリードし、中国、ロシアまで賛成に追い込む大成果を挙げた。 2006年10月の核実験成功により北朝鮮が新たな核保有国になったことで、日米と北朝鮮の軍事バランスが崩れ、日本は懸案であった米軍再編成への経済協力法案を急遽国会で強行採決、さらにイージス艦配備、米海兵隊のグアム移転と基地建設費の負担等々を前倒しで決定、アメリカにとって期待を上回る成果になった。 対日要求が満たされたのでアメリカは即刻対朝金融制裁を解くと同時に従来の対北朝鮮強硬政策から宥和政策に変更した。この時点でアメリカにとって、小泉政権の対朝強硬策は不要なばかりか邪魔な存在となってきたのである。当然、安倍・麻生の対朝拉致一点張り路線はアメリカの対朝政策転換とマッチせず、6カ国協議でも日本は孤立化を深めている。 日本の病巣(消えた年金資金)の除去 戦中、敗戦色が濃くなり戦争債で充分な戦争資金が集まらなくなったため、戦争資金が国民年金の名で集められ、すべて浪費された(詳細は12月に出版予定の拙著参照)。そして、その膨大なマイナス年金元本は戦後社会保険庁に受け継がれ、さらに同庁で集められた年金資金は野放図な運用で元本の大部分を失ったため、年金行政は破綻状態に陥っていた。 日本の年金制度を将来に繋げるには、過去の国家の不正と無責任によって累積した100兆円を超えると考えられる国民に対する国家の債務を闇に葬る以外になくなった。そこで大蔵省(現財務省)筋から、不正・不当債務帳消し額に匹敵する5000万件の記録紛失情報のリークとなったのである。 安倍政権に課せられた責任の一つは、日本の病巣ともいえるこの100兆円を上回る累積年金赤字の抹消である。(5000万件の失われた年金受権者に)「最後のお一人まで私が責任を持ってお返しいたします」と誓った安倍の言葉で、長きに亘った国民欺瞞の累積債務は消えてなくなった。ちなみに9月11日現在、5000万件の喪失記録中、年金給付が許されるのは104件のみである。これで日本の病巣は除去! 安倍のお役目終了! となったのである。 2001年に続いて、アメリカが小泉政権に(日米投資イニシアティブ2003で)要求したのは郵政民営化と年金資金の自由化であった。小泉政権は郵政民営化、安倍内閣は年金資金民営化前の絶対条件であった日本の病巣の除去を行った。そこでいよいよ大蔵省(現財務省)支持、麻生派を除く全派閥支持の福田時代の到来となる。 安倍の劇的でタイムリーな辞任は自民党を挙党一致にし、年金民営化を求めるアメリカが満足する政権への道筋を作った。麻生は安倍が参院選大敗直後の辞任にストップをかけ、その後の内閣改造で人事を仕切った。麻生が勧めるグッドタイミングで安倍が辞任すれば、なし崩し的に麻生首相が誕生したのであった。 しかし、安倍は麻生にとってウォースト(最悪)タイミングに辞任し、麻生の野心にストップをかけた。これで安倍は自ら無責任と嘲笑を買うことで福田と自民党に貸しを作り、将来の政治生命に繋げた。一方の麻生は、安倍によって野心が暴露されて党内の反感を買い、挙党一致の党内で孤立することになった。 こうして安倍内閣を総括してみると、短期間ではあったが、安倍の内外政治における功績は意外に大きかった。さすがに血筋がいいだけのことはある。
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