円急伸! はいつも来た道 「10月から円高(対ドル)110円になる。2008年は105−95円」と、私は口癖のように言い続けてきた。予想通り、先週金曜日から円は110円台に突入してきた。1998年1月に、私は10月初旬(10日までに)110円を予測し、嘲笑の的となった。10月6日になってもまだ130円台だったため、多くの人から「あと4日で10月10日だよ。でたらめを言ったことを謝罪しろ」と言われ、「もう時事直言は送らないでくれ」と大変なお叱りを受けた。ところが、ご存知の通り、10月6日から3日間で134円から一気に111円(9日)になった。この「恐怖の3日間」のおかげで私の知名度が上がることになったのである。 今回の円高について、私は98年と同じ説明をしてきた。金融市場の取り組み、すなわちキャリートレードと経済構造の変化である。低金利の円を借りて高金利のドル資産投資を拡大してきたヘッジファンドなどが、ドルの信用収縮から一転してドル(資産)売り、円(返済)買いに走るので円高になると説明した。1998年、FRBはLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の危機を救済すると同時(9月29日)に、FF金利を0.25%引き下げた。10月になると最大手タイガーファンドのキャリートレードによる損失が明らかになり、為替市場で一斉に円の買い戻しが拡大した。 98年9月、LTCMが起こした信用不安は、今回(07年8月から)のサブプライムローンによる信用収縮と重なる。また98年、グリーンスパンが9月29日と10月15日に0.25%の利下げを行ったことは、バーナンキが9月18日と10月23日に0.25%の利下げを行ったことに重なる。そして今、98年以後と同様に、日米経済の構造が変化(アメリカは外需、日本は内需依存)しようとしている。 アメリカの国民はドル(アメリカの力)不信に陥った 2001年9月11日の同時多発テロで「いきり立った」アメリカの国民は、今「意気消沈」している。中東や北朝鮮問題でも国民には強気外交を支持する気力はなく、かつての攻撃体勢は今や撤退ムード一色である。アメリカの国民にとって、100ドルになんなんとする原油高は生活を直撃すると同時に、中東第二の石油大国イランへの敗北感を募らせる。また、110円のドル安は最大の経済競争国日本への敗北に映る。そして国民はブッシュ政権の無能さをののしり、アメリカの力のシンボルであるドルをまるで紙くずのように感じ始めた。 世界でも同じである。99年のユーロ誕生時、世界交易の50%のシェアを誇っていたドルは、今や24.5%に落ち込み、37.7%のユーロに世界市場を奪われようとしている。中国をはじめ、貿易黒字国の外貨準備のドル離れが続く。もはやドルは世界の通貨とは言えなくなったのである。 本物志向の時代がやってきた マネーそのものは価値を生まない。投機市場での儲けと損を足せばゼロになる(ゼロサム)。儲かったと喜んでいる者の金は、損した者の金である。株の儲けは売ったときの値段から買ったときの値段を引いた差額であって価値ではない。今日までは価値を生まない世界が価値を生む世界を圧倒してきた。しかし、人々はやっと興奮から目覚め、「差」と「価値」の違いに気がつき始めた。 ゼロサム世界の衰退が始まり、モノ作り(価値つくり)世界が再確認される時が来た。先物市場で一攫千金を得た者たちの破綻はアメリカの衰退の象徴であり、モノ作り国日本の再確認と台頭である。今後、世界のマネーは、「差」ではなく「価値」を求めて動く。
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