第448  国会議員号  (2008年01月15日号)

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株価と政治

一国の株価はその国の経済の指標であると言われるが、最近の日本の株価を見ていると、果たしてそうなのかと疑う人も多いだろう。アメリカは2002年から住宅産業主導で内需拡大型好況を演出し、4%台の経済成長を持続したが、2006年になると住宅ブームが終焉、2007年になって好況の徒花のようなサブプライム問題が露出し、2008年になっても不況風が吹き荒れている。日本経済もいざなぎ景気を上回る好況を持続し、企業業績は先進国中最高であったにも拘らず、株価上昇率は最低であった。2002年以来、日本経済はアメリカの内需と中国その他アジア諸国の高成長に支えられながら好況を持続し得た。

ところが、アメリカがドル安・利下げ政策に転じたことで明らかなように、アメリカが内需依存型から外需依存型に経済の舵を切り替えてきたのに、日本の政策対応は一切なされなかった。2007年、日本最大の失策のひとつは、1月18日の日銀の政策決定会合で、政府の圧力に屈して利上げを見送ったことである。アメリカがはっきりと経済政策変換の意志を示した年初に日銀は呼応しなかったのである。これで日本には経済主権のかけらもなく、アメリカの政策への追従さえできない経済無能国家であることが市場に露見してしまった。そのためアメリカ経済の牽引車の交代(内需→外需)がスムーズにいかなくなり、結果世界の株価不安定と度重なる暴落を招く結果になったのである。

2007年の後半からアメリカの貿易収支の赤字が大幅に縮小し始め、アメリカ経済が完全に外需依存型に転換したことがはっきりしたにも拘らず、まだ利上げに躊躇し続ける日銀は利上げどころか、世界の中央銀行の利下げ共同歩調の圧力に屈しかねないところに追いやられている。長期にわたったゼロ金利政策で日銀の存在感は皆無であったところから、やっと世界の、特にアメリカの経済政策に呼応できる立場になりながら、またもや自らの存在価値を放棄してしまった。福田内閣もいまだにアメリカの経済政策転換に適合した内需拡大政策を打ち出していない。政府にはアメリカが外需依存に、また中国が内需拡大に政策転換しているという認識はないようだ。

日本の企業業績が最高なのに世界の株価上昇期に日本の株価だけが低迷し、一旦世界の株が下がり出すと、どの国よりも日本株は大幅に下がる。この原因は日本の政治にその一端がある。日本の株価低迷は、市場が日本の政治がアメリカを中心とした経済の変化に無感覚、無為無策であることを知ってしまったからである。「我思う、故に我在り」(デカルト):市場では、存在しないモノを買うことはないのである。


2008年は外資が撒き餌を撒き続ける

では、なぜ『またもや、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代がやってくる』(拙著・徳間書店)のか。巨大な浮遊資金を牛耳るファンドが世界の株価を動かしているのは紛れもない事実である。世界には確固たる戦略のもとで動くマネーと、戦略に翻弄されるマネーがある。さしずめ日本の個人・法人投資家は後者である。だが、常に戦略を駆使する者が勝者で、戦略に翻弄される者が敗者になるとは限らない。

昨年の年初には、世界の戦略家の代表とも言える大手ヘッジファンドで利益を出したのはわずかであった。私はFOMC(連邦公開市場委員会、次回日程は1月29・30日)の後、ニッケイ平均が一気に上昇に転じ、上昇を続けると見ている。それは外資の戦略に日本の投資家が翻弄されるからであり、その結果が日本の株価の限りなき上昇に繋がると見ているからである。詳しくは拙著に書いたので是非読んでいただきたいと思う。

では、外資の戦略とは何だろうか。分かりやすく言えば、「他人の懐の金を市場を通して奪うこと」である。市場を通さず他人の金を奪うと犯罪になるが、市場を通せば合法である。奪う者が対象とするのは常に金持ち(日本や中国)であることは言うまでもない。

奪い方には二通りある。第一は金持ちの金を戦略家の領域に誘導して奪う。第二は金持ちの領域に戦略家が乗り込んで奪う。2007年まではアメリカの領域に日本の金は誘導され、アメリカがあっという間に日本の金を住宅その他取り返せない形の資産に変えてしまったので、今やアメリカの領域から日本が引き上げられる金はほとんどなくなってしまった。

2008年からは戦略家が日本の領域にやってきて日本の金を奪う番である。大量の金を奪うには、ちょうど投網で大量の魚を獲る時のように大量の撒き餌をする必要がある。その際、水かさが多いと余分に餌が要るし、逃げる魚が多くなる。ここまで説明すると、なぜ日本の株価だけが異常なほど下げ続けるか理解できたと思う。餌を撒く前に日本の株式市場の水かさを減らしているのである。

これから外資は、少なくとも2008年一杯は日本の市場に餌を撒き続け、魚をかき集める。言うまでもなく、日本に眠る750兆円の現金預金と郵貯・簡保から市場に移された300兆円を超える資金がターゲットである。日本政府の無為無策は、アメリカ市場にJapan Moneyを誘導する時はアメリカにとってマイナスであったが(おかげで日本はサブプライムローン問題の被害が少なく済んだ)、日本市場を席巻する時は政治に邪魔されないのでプラスに働く。

2008年、日本株が高騰するので福田首相は幸運であるとかつて本稿で書いたが、それが「皮肉」であることはお分かりの通りである。願わくは、日本の投資家の皆様は外資が撒く餌を腹いっぱい食べて、網が頭の上に落ちてくる前にさっさと逃げることを。つまり、外資に翻弄されて勝者にならんことを!

政治でも経済でも、農耕民族の「和の精神」をDNAに持つ日本人は、「負けて勝つ」以外に勝つ道はないのである。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)