回復が遅れるアメリカ経済 今後の世界経済はアメリカ経済の行方に掛かってきた。前回の本誌で福田内閣に、日本には多少財政負担がかかるとはいえ同盟国アメリカの経済危機を救うと同時に、日本の国民の所得増につながる積極財政、公共投資増の選択肢があることを指摘した。前述のようにアメリカ経済とドルに対する不信からグローバル金融が十分に機能せず、アメリカを始め他の赤字国に黒字国の資金が適度に循環しなくなっている。弱体の赤字国のデフォルト(債務不履行)の発生が世界恐慌のきっかけとなる前に日本が率先して中国など黒字国と共同で内需拡大政策とBuy Americaを促進しなくてはならない。少しでもドル不信を和らげるために、100円を越す円高には為替介入でドルを買い支えることも躊躇してはならない。 前回世界恐慌の兆しがアメリカに現れてきたと述べたが、もう少し細部にわたって説明しよう。 先ず、アメリカの投資銀行と商業銀行のことを知っていただきたい。今回買収されることで話題になったBear StearnsやLehman Brothersなどは投資銀行。買収するMorgan ChaseやCitigroup、Bank of Americaなどは商業銀行である。投資銀行は株や金融商品等の金融取引と不動産関連債権取引の資金供給窓口であり、商業銀行は軍産複合体をはじめ実体のある産業向けの資金供給窓口である。投資銀行の資産は市場によって評価される時価会計が原則であるが、商業銀行は固定金利の預金債権のように市場の変化に関わりない債権が中心であるという理由や、実体産業に大きな影響力を持つことから一定の資産に対しては時価会計を免れ、また一定の債券に対しては非開示の特権(ブラックボックス)が与えられている。不況時以外でFRBが資金供給する相手は商業銀行であって投資銀行ではない。だから今日のように投資銀行が危機状態にあるときFRBの資金は商業銀行に流れて投資銀行の買収や統合のために使われる。私は、かつてサブプライムローン問題が発生したとき、これがきっかけでアメリカの銀行の再編成が起きると述べたが、まさに今それが始まったことになる。今後商業銀行が投資銀行を傘下に収めるか統合することでアメリカの金融界が一本化されることになる。 ところが時価会計に縛られずブラックボックスの特権を持つ上にワシントン(政治)に庇護されている商業銀行に危機が訪れようとしている。Citigroupの2005年12月から2007年12月までの四半期ごとの会計報告によると、レバレッジ取引額の総資産に対する倍率が12.3から18.2倍に跳ね上がっている。市場に左右されない真水の資産(Tangible equity)に対する倍率はなんと41.6倍になっている。総資産(Total equity)に対する真水の資産(Tangible equity)はわずか2.3%。今日のマーケット状況ではCitigroupが手持ち債券を売ってレバレッジのかかったリスク債権を減らすことは難しい。アメリカの実体産業への資金供給窓口である頼みの商業銀行も今や危険水域に入り、融資能力が落ち込み始めた。今後大手商業銀行のブラックボックスの中身が表ざたになってくると、ドル安を手がかりにアメリカ経済の牽引車になろうとしている製造業(兵器産業等)への資金供給問題が起きる。さらに保守主義になりつつある黒字国からの資金流入の激減でアメリカは赤字補填のためさらにドルと債券発行を迫られる。その結果は更なるドル不信につながる。このアメリカの悪循環がスパイラル化する前に日本と中国が思い切った内需拡大策を採ることと、ドル買い介入をして少しでもドル信認の回復に努めるべきである。もはやアメリカの経済危機はアメリカの金融・財政政策だけでは救えないことを知るべきである。
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