第459  国会議員号  (2008年03月21日号)

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もう一つの世界恐慌

くどいようだが私の3月暴落と円の100円突破は現実となった。本日発売の「増田俊男の大成功への実践的助言シリーズ」最後の10巻で詳しく述べたが、アメリカの投資銀行は2002年以来の住宅ブームで飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、アメリカを震源地としたサブプライムローン問題によるCredit Crunch(信用収縮)で、いまや崩壊寸前。Bear Sternsの株は昨年172ドルだったが今は2−6ドル。Chevy Chase系に買い取られることになった。本誌で再三述べてきたように今回のサブプライム債権(不良債権)処理で世界中が3月決算で大赤字を計上するから、その分だけアメリカは債務を減らして4月から身軽になる。したがってサブプライム問題は3月末で終わると考えていい。

ところがグローバル時代の世界経済はそう単純ではない。ここで少しグローバル経済とはどういうことかを知っておく必要がある。一言でいうと、「世界のimbalance(国際収支不均衡)を均衡化する方向にマネーが展開する」ことである。市場の自立調整機能と言う。たとえば常に貿易赤字のアメリカへ常に貿易黒字の中国から資金が移動することである。

だからグローバル時代に、「アメリカの貿易赤字が拡大しているからドル安になる」とか「超円高が進んでいるから日本の輸出産業は駄目になる」などと、終戦直後によく聞いたことを未だに平気で述べる評論家がいるが、今日のグローバル時代にはまったく通用しない。アメリカの赤字が多ければ中国からより多くの資金が流入(ドル買い)するからドルは上がる。円高になれば日本の製造業のコストは下がって利益率が上がり、物価は下がって消費が伸びる。グローバル時代には「円高不況」などもはや死語なのである。

さて、昨年からアメリカの貿易収支の赤字が減少している。貿易赤字が減ればドルが上がるというのは間違いだということがわかったところで少し「怖い」お話をしたい。いまサブプライム問題が終わろうとしているが、前述の国際収支のImbalance是正の自立調整機能が働かなくなっていることがわかった(IMFの調査結果)。中国や日本のような国際収支大黒字国からアメリカの赤字分に見合う資金が流れ込んでいないのだ。この原因は明らかでアメリカをも含めた先進国に保守主義が台頭してきたためである。つまりアメリカ経済の先行き不安が原因で投資(リスク)より保有(安全)に資金運用態度が変化したのである。アメリカに向かわない資金は他の赤字国にも回っていない。このままだとどこか虚弱な赤字国の経済が突如破綻することがあってもおかしくない。そんな経済破綻国が引き続き出てくると、サブプライム問題より大規模な世界恐慌の引き金となるかも知れない。さらに新しい世界恐慌リスクはアメリカの債券市場の変化にも見られる。今まで株式市場が低迷すれば債券価格が上昇して長期金利が下がった。たとえ株安になっても米債券の信認に不安は無かった。ところが最近株が下がると債券価格も下がり、長期金利が上がる逆現象が見え始めた。国際不均衡の自立調整機能、ドルの信認は今日のグローバル経済の基本である。この基本が崩れるとどうなるだろうか。3月の底より、もう一つ大きな底があるかも知れない。世界恐慌で日本経済がどうなるのか、国民がどうなるのか、日本の政治家は何を考えているのか。今こそ赤字国債を発行してでも内需拡大をはかることが日米経済のために必須であることがわからないのだろうか。宝の山と知りながら外資が日本を撤退するのは何故かわかっているのであろうか。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)