第477  (2008年07月17日号)国会議員号

増田俊男事務所 http://chokugen.com

アメリカの売り相場の終焉

2007年夏から顕著になったアメリカ発の金融危機は峠を越した。大手投資銀行の破綻は免れたし、住宅価格下落にも底止まりが見えてきた。下げ続けてきた住宅に買いが入り始めた。2008年以降の販売台数を2000万台と過剰予測したアメリカの自動車産業はリストラと資産売却で、一時懸念された危機は回避した。イランのミサイル実験や原油生産国の政情不安はさらなる原油高の要因だが、私が予測した1バーレル150ドル近辺に達した途端に下落してきた。原油価格もこの辺で「打ち止め」と見ていいのではないか。どんな相場にも限界がある。NYSEでもいつまでも売り手市場(Bear)が続くわけではない。買い方(Bull)が力を蓄えて待機している。暗いトンネルが長いほど、トンネルを抜けた後の日差しは眩しいものである。


政治・経済は一体

政治と経済の関係はちょうど鶏と卵の関係である。鶏は卵から産れたとも、また卵は鶏が産んだとも言える。今日のアメリカ経済はインフレと不況が混在するStagflation状態に陥っている。政治を見ると、イラク派遣の米軍は釘付け、イランの軍事挑戦に無能、世界の環境問題でのアメリカの主導力はなし、ブッシュの支持率は最低をマーク。経済が最悪なら、政治も最低。しかし相場も政治も同じで、「底を打ったら、上昇する」ことを忘れてはならない。

アメリカの政治・経済の大転換は11月の大統領選挙後である。オバマ大統領候補が「変化」を標榜するのはまったく当を得ている。しかし人気はあっても本人は戦争でアメリカを変えようとしないので次期大統領には不適格である。9/11をきっかけにしてブッシュはアメリカの政治・経済の方向を変えたように、今回のアメリカの変化のきっかけを与えるのは中東戦争以外には見当たらない。すでにイランとイスラエルの緊張の高まりで、政治の流れは中東戦争へ向かっている。たぶん、選挙前に中東戦争の兆しが見えてくるだろうから、そうなればオバマはノーチャンス。

相場は先読みで動く。アメリカの11月選挙後、そして2009年から激化する長期中東戦争。この先読みは8月から始まると私は昨年から予測してきたが、今のところアメリカは予定のコースを進んでいる。前述のように政治・経済が最悪の状態なのにFRBも財務省も徒手して小手先だけの手しか打たないのは11月をにらんでのことである。いいニュースも悪いニュースも小出しでは効かない。ブッシュは選挙前の一瞬を狙って、中東平和条約という名の戦争準備を終えてマッケインにバトンを渡すだろう。またもや、9/11の時のように世界のマネーの動きが逆流してアメリカに向かう。現在の金融資産と不動産資産の下落は、世界のマネーがアメリカを買いやすくするための準備と思っていいだろう。


駆け込み寺の日本経済

アメリカがStagflationという名のもとに戦争と戦争経済の準備をしているとき、無借金天国といっても過言でないほど財務状態がいい企業がひしめいている日本、サブプライム問題でほとんど無被害の邦銀、先進国でインフレ率が最も低い日本、アメリカのGDPの1年半分も買えるほどの国民金融資産を持つ日本、モノ造りテクノロジーNo.1で成長基盤が確立されている日本、政府の財政・金融政策が皆無に等しく、企業の自主性が制約されることなく、自由にグローバルに発揮できる日本。混乱を続ける世界経済のなかで、唯一日本だけが目立つことなく存在している。いま日本経済そのものが世界の「債券」になろうとしている。2009年またしてもアメリカの政治と経済が世界を牽引するまで、日本は世界のリスクヘッジの駆け込み寺として栄えることになる。




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