第667号(2011年8月8日号)

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(タイ新政権に関する地域フォーラムでのレクチャー題名)

「東日本大震災(3月11日)以降の日米株価を見れば日米経済の今後が分かる」

「東日本大震災(3月11日)以降の日米株価を見れば日米経済の今後が分かる」
メディアで既報の通りタクシン元首相の実妹インラック女史(プアタイ党)が下院選で勝利しタイの新首相の誕生で祝賀会に招待されたので現在バンコクに来ている。8月5日新政権の経済政策と成長戦略を討議するタイ地域フォーラムがバンコク・クラブで開催され、私は特別オブザーバーとして日米経済の見通しについてレクチャーすることになった。
出席者は財務、金融省官僚、関係国大使(オーストラリアなど)、大手銀行、貿易商社、大手企業のCEOと商工会議所などタイの経済を代表する多くの方々が参加した。当日(8月5日)NYダウ平均が512ドル下落したため話題はもっぱら今後のアメリカ経済であった。そのため私のスピーチは大変脚光を浴びることになった。下記は私のレクチャーの要約である。


NYダウは本日(NY時間5月4日)512ドル下げて11,383ドルになり、ニッケイも359円下げて9,229円になった。NYは本年3月の底である11,613ドルより230ドル低くなったがニッケイは同じく3月の底8,227円より1,002円高い水準を保った。これはこれから述べるアメリカ経済の構造的問題と自然災害に依って奇跡的成長トレンドに向かっている日本経済との違いを如実に表している。


2007年末からのリセッション(不況)についてアメリカは「2009年6月をもって不況は終了した」と公式発表を行ったが、ミスリーディング(間違った誘導)以外の何物でもない。今回の不況は従来のような金融、財政支援で解決出来る性質のものではない。レーガン共和党政権の圧倒的国民支持を見て民主党は選挙で勝つためには黒人等の少数民族と低額所得層の有権者登録数を増やす以外にないと考え富とクレジット(信用)の配分を信用度の低い低所得者層に拡大する政策を打ち出すことでMinority(少数派)の大量有権者登録に成功し、見事にクリントン民主党政権を誕生させた。少数派の選挙人登録に大活躍したのが今日のオバマ大統領である。1992年から民主党政権は低額所得層に住宅を持たせる”You can have your own home.”(貴方も家が持てる)キャンペーンを発表し二大住宅金融公庫の住宅貸付条件を大幅に緩和すると同時に住宅建設業には税の特典を与えた。その結果、1993年から2002年の5年間にアフリカ系アメリカ人向けの住宅融資は219%、ヒスパニック系向けは244%も増加した。
二大政府系住宅金融公庫の低額所得者向けの住宅ローンは実に43%も増加したのである。その結果、新築住宅戸数は2007年まで急上昇を続け、住宅産業に従事する労働者の数と所得が上昇を続け他産業の羨望の的になった。アメリカの労働力は他産業、特に製造業から住宅産業へ移動を続け製造業の就業者数は1992年から2007年にかけて急激に減少したため多くの製造業は規模縮小と製造拠点の海外移転を迫られる結果となった。住宅産業のGDP(国内総生産)に占めるシェアは増大しアメリカの経済成長率は住宅産業の成長率に連動し1992年から2007年までアメリカのGDPは急成長を遂げた。ところが2007年末からのバブル崩壊で低額所得者の住宅ローンはことごとく返済不能に陥入り住宅産業は崩壊状態になった。製造業からシフトされていた労働者が一気に失業者になったため失業率急上昇、一時は10%を超えるほどであった。さらに6月末のQE2終了による市場の資金量収縮で、住宅産業と同じく労働集約産業である金融業はレイオフに追い込まれ失業率の改善は望めそうもなくなった。新築住宅と中古住宅の価格が接近すれば新築住宅数は増えるが、引き続く住宅価格の下落で競売件数が増え、また競売件数の増加が中古住宅価格を下げるという悪循環が続いている。さらに住宅価格の下落は家計の含み資産減少となり消費が減退するから正にダブル悪循環が続いている。
今回のアメリカ経済不況はこうした構造的不況であって従来の循環型不況ではない。従ってアメリカの地銀に累積している住宅不良債権を一掃しないかぎりアメリカは不況から脱出できない。住宅不良債権が投げ売りと競売で解消するには少なくとも今後5年の年月を要し、地銀の倒産数は毎年100件を超すだろう。


先進国で日本だけが東日本大震災復旧完了までの約5年間、日銀の量的融緩和と政府の災害復旧のための$300 billion(約25兆円)規模の大型公共投資が続くので高成長が約束されている。


質問:日本の国債発行額はGDP比200%で世界経済史上最悪になっているにも関わらず介入しなければならないほど円高になっている。何故か。
答え:理由は二つある。第一は日本の国債のほぼ100%(実際は95%)が国内で消化されている事実。つまり外国から見れば日本は無借金国であるだけでなく世界最大の債権国である。
第二の理由はFinancial Repressionである。つまり日本の政府日銀は銀行、企業、国民個人に国債を常にプライム・レート(優良企業向け金利)より安い金利で半ば強制的に持たせることから得られる金利差益で国債を償却し続けている。しかしこの償却利益は財務省のバランス・シートに載らない仕組みになっている。これが俗に言う目に見えない埋蔵金である。
日本の国民が保有する現金と有価証券総額は約$18 trillion(約1,500兆円)で、国債発行額は約$8.8trillion(約700兆円) だから日本は国債発行限度額までにはまだ$10trillion(約800兆円)の余裕がある。歳出削減や増税をしなくては国債発行限度額を引き上げられないアメリカとは月とスッポンである。プラスの事実が常に最悪の財政状態になって現れる日本の会計制度こそが日本を永遠に財政富国にしている秘策である。公表される事実と真実とは常に異なる。以上が私のレクチャーの要約である。
私のレクチャーは大変な反響で用意した名刺箱はほぼ空になったのであった。


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