ギリシャとトロイカの猿芝居
私は6月16日の「ここ一番!」と本誌6月22日号でIMFと欧州(債権者グループ)とギリシャとのギリシャ支援をめぐる堂々巡りはシバイであると述べた。ギリシャ政府は2014年末現在で約3,200億ユーロの負債を抱え、その約6割はユーロ圏、1割はIMF、他は債券発行による負債で一部はECB保有、他は民間金融機関保有である。6月30日、IMFへ1.6
billion euro(16億ユーロ)、7月20日ECBへ3.5 billion euro(35億ユーロ)、8月20日ECBへ32
billion euro(32億ユーロ)と次々と返済期日が来る。ギリシャと債権者グループ(IMF、ユーロ18カ国、EC委員会、ECB)の最終合意を目指す会議が6月27日(土)に予定されていたが、チプラス首相(ギリシャ)はIMFと欧州グループの提示条件は屈辱的と言って債権者グループ案を全面拒否、最終会議をボイコットし7月5日選挙で国民の信を問うと発表した。その為債権者グループは6月30日で期限切れの未実施支援額7.2
billion euro(72億ユーロ)につきチプラス首相の選挙後までの期限再延期願いを全会一致で葬った。IMFと欧州グループとギリシャの合意条件交渉中ギリシャの民間銀行からの連日のように資金が流出し、銀行群は資金ショートを来したが、ECBは緊急流動性支援法(ELA)に基づき三回にわたり約5
billion euro(50億ユーロ)を支援してきた。今回のチプラス首相の合意交渉売り切り宣言で支援の望みが絶たれたので今後ECBはギリシャ国債を担保に使えなくなり銀行支援(ELA)は行われない。
したがって6月30日からギリシャのデフォルト(返済不履行)は確実。
既に「ここ一番!」(6月16日)で指摘した通り、もとよりギリシャもIMF、欧州グループもギリシャ支援合意などあり得ないと考えていて、チプラス首相の選挙宣言はサプライズ(驚き)などではなく予定のコースであった。
IMFと欧州側は合意に至らなかったのはギリシャの責任であるとして「ドロボーに追い銭」を避け、一方ギリシャは6カ月間もじらしながら6月末の期限までいかなる理由でも相手から取れるだけ資金を引き出すことに専念してきた。チプラス首相は最終会合前にロシアを訪問して将来ロシアとカスピ海周辺の原油・天然ガスをトルコ・ギリシャ経由で欧州へ送るパイプライン建設計画合意書に署名、将来ロシアと共にエネルギーで欧州に圧力を掛ける方針。
プーチン大統領は若き(40歳)チプラスに「100万ユーロを借りたら君の責任だが10兆ユーロ以上借りたのだから、涼しい顔をしていればいい」と元気付けている。ギリシャは今後欧州グループにもIMFにもデフォルト(返済不履行)を続けるがユーロ圏離脱は絶対にせず加盟国としての特権をフルに活用する。欧州憲法(リスボン条約踏襲)によりギリシャはEU離脱を強制されることはない。
ロシアは併合したクリミア半島でアメリカの石油精製基地が集結するメキシコ湾地帯を標的にした大陸間弾道弾ミサイル基地の建設を急いでいる。更にプーチン大統領は数百台のタンクをウクライナ親ロシア派に送り込んで内戦をロシア側有利にしている。これに対して欧米は対露追加制裁を行おうとしているが欧州憲法によりEU加盟国全員の賛成が必要である。ギリシャはチプラス首相とプーチン大統領との密約により対露制裁に反対するから欧米は身動き出来ず、ウクライナや東欧におけるロシアの攻勢は一層強まる。
ギリシャ問題はかねてから私が指摘してきたように単なる財政危機問題だけではなかったのである。さらに言うなら、6月27日前までギリシャのデフォルトとユーロ圏離脱はないと市場に思わせ株価が上がったところを上手に売り逃げた(売り掛けた)スマートマネーがあったことも忘れてはならない。
ギリシャのデフォルトで下がったところを買い戻すというわけ。
こうなると欧州グループは貧乏くじを引かされたようだが、とんでもない。
こうでもしないとアメリカを欧州戦場に引っ張り出すことが出来なかったということ。6月29日はワシントンDC、Capitol Hillsで防衛会議があるが、ロシアの攻勢にアメリカがどう出るかが決まる。
物事はすべて予定通りに、しかもスムーズに流れている。
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