第384号  (2006年10月23日 国会議員号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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日本の核保有論議是非の前に……ぜひ!

 下記は9年前の私の「時事直言」No.5.1997年5月2週号です。今日「時事直言」は何十万人の方々に読んでいただいていますが、9年前の読者はわずか数百名でした。また、その頃は日本の核保有についての論議などタブーでした。そうした時期に下記のような事実を述べることに私は戸惑いを感じたものでした。今やGood timingと思い、再度発表することにしました。

(転載始め)
「時事直言」NO.5 1997年5月2週号
非核三原則(核を造らない、使わない、持ち込まない)の大嘘!

 佐藤栄作元首相の日記(1952-75)が朝日新聞から刊行される事になった。この日記と故若泉敬氏(1996年他界)の宣誓証言に基づく「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(文芸春秋社)により、「沖縄に核が現存し、核部隊が駐屯し、新たな核の持ち込みが保障されている」事が証明されたのである。
 1969年11月21日の日米首脳会談で、2年後(1972)の沖縄返還が日米両国首脳により声明されたホワイトハウスでのセレモニ−の後、ニクソン大統領の勧めで大統領と佐藤総理の二人が宝石鑑賞という名目で大統領執務室の隣の小部屋に入り、二人だけになった。
 そこで若泉氏(佐藤総理の黒子として隠密裏に極秘合意書の作成に当たった)とキッシンジャ−が最終的にまとめあげた沖縄の核に関する極秘合意書が双方によりサインされたのである。その時二人がサインしたトップシ−クレット(極秘合意書)の全文を下記に示し、英文が表す真の意味を解説する(本合意書の公式語は英語であるため)。


TOP SECRET
AGREED MINUTE TO JOINT COMMUNIQUE OF UNITED STATES PRESIDENT NIXON AND JAPANESE PRIME MINISTER SATO ISSUED ON NOVEMBER 21, 1969
United States President:
 As stated in our Joint Communique, it is the intention of the United States Government to remove all nuclear weapons from Okinawa by the time of actual reversion of administrative rights to Japan; and thereafter the treaty of Mutual Corporation and Security and its related arrangements will apply to Okinawa, as described in the joint Communique.
 However, in order to discharge effectively the international obligations assumed by the United States for the defense of countries in the Far East including Japan, in time of great emergency the United States Government will require the re-entry of nuclear weapons and transit rights in Okinawa with prior consultation with the Government of Japan.
 The United States Government would anticipate a favorable response. The United States Government also require the standby retention and activation in time of great emergency of existing nuclear storage locations in Okinawa: Kadena, Naha, Henoko,and Nike Hercules units. Japanese Prime Minister:
 The Government of Japan, appreciating the United States Government's requirements in time of emergency stated above by the President, will meet the these requirements without delay when such prior consultation takes place.
 The President and the Prime Minister agreed that this Minute, in duplicate, be kept each in only in the office of the President and the Prime Minister and be treated in the strict confidence between only the President of the United States and the Prime Minister of Japan.

Washington D.C. November 21, 1969
R.N.
E.S.

<直訳>
1969年11月21日発表のニクソン米合衆国大統領と佐藤日本国総理大臣との間の共同声明についての合意議事録
米合衆国大統領
 われわれの共同声明で述べてあるごとく、沖縄の施政権が実際に日本国に返還される時までに、沖縄からすべての核兵器を撤去することが米国の意図である。そして、それ以後においては、この共同声明に述べてある如く、日米間の相互協力及び安全保障条約、並びにこれに関連する諸取り決めが沖縄に適用されることになる。しかしながら、日本を含む極東諸国の防衛のため米国が負っている国際的義務を効果的に遂行するために、重大な緊急事態が生じた際には、米政府は日本国政府と事前協議を行ったうえで、核兵器を沖縄に再持ち込みすること、また、沖縄を通過することの権利が認められることが肝要となるであろう。かかる事前協議においては、米国政府は日本政府の好意的(NOと言わない)回答を期待する。さらに、米国政府は、沖縄に現存する核兵器の貯蔵地である、カデナ、ナハ、ヘノコとナイキ・ハ−キュリ−核部隊を、重大な緊急事態が生じた時にいつでも使用でき、活用できる状態に維持する必要が求められる。

日本国総理大臣
 日本政府は、大統領が述べた前記の重大な緊急事態が生じた際における米国政府の必要事項を歓迎し、かかる事前協議が行われた場合には、(いかなることがあろうとも)遅滞なくそれらの要求に応じるものとする。大統領と総理大臣は、本合意議事録を2通作成し、1通ずつ大統領官邸と総理官邸にのみ保管し、米合衆国大統領と日本国総理大臣との間で最高の警戒の下に極秘裏に取り扱うべきものとすることで合意した。

1969年11月21日ワシントンDCにて
R.N.
E.S.

<解説>
上記極秘合意書の重要部分は2点。
The United States Government would anticipate a favorable response.の文の中でwouldを使ったことは、文法的には仮想法といい、「どうしても駄目なら仕方がないが、期待する」と、控えめで、遠慮をした表現であるのに対して、佐藤総理は、will meet the requirements without delayとwillを使っている。これは規定の事実や強い意思を表す表現で、「どんな事があっても決して遅れることなく絶対に要求に応じます」と、強い意思と決意を表している。 (返還時に)沖縄の3地区に現存する核兵器と核部隊は現状のまま(撤去することなく)維持し、不測の事態にはいつでも活動できるようにしておくこと。
前文の、米国は沖縄返還までにすべての核兵器を撤去する意図がある、とした文中のintentionの意味は、「その気がないではない」ぐらいの意味で、条約上は「全く責任を負わない場合」に使う用語である。一方佐藤総理のwill meet the the requirementsは確約であり、「責任を負う」、義務を表す表現である。
 常日頃、私が「沖縄には核と核部隊が現存している」と言い続けている事の証明。佐藤元総理以来、我が国の歴代政府の世界に誇る「非核三原則」はお笑い種なのである。
 今後マッカ−サ−が作った「日本国憲法」や「日米安全保障条約」で日本のアイデンティティを否定し、安全どころか常に日本を危機に曝すことにより、日本の支配を狙う米国の「本音」の証拠がどんどん出て来るだろう。まるで日本人が日本を忘れる時を待っていたかのように。
(転載終わり)


 今でも、当時の<直訳>と<解説>は正しいと考えます。
 この佐藤・ニクソン秘密合意で最も重要かつ認識しておかねばならぬことは、

1. アメリカが日本への「核の持込権」(the re-entry rights)と「核の(日本)通過権」(the transit rights)を行使するための条件である「緊急事態」の判断はアメリカに委ねられていること、

2. 「事前協議」はアメリカの任意であること(義務ではない)、

3. 事前協議があった場合「日本は反対できないこと」(Japan will meet the requirements without delay when such prior consultation take place)、

4. 従ってアメリカが日本に事前協議をするのは、誰の目にも明らかな原子力潜水艦の寄港などに限られ、核関連物資の「持ち込み」、「持ち出し」、(日本の港、空港)「通過」については一切事前協議は行われていないこと、

5. 沖縄返還以前から、Kadena, Naha, Henekoの(米軍)基地に存在する(the standby retention and activation …… of existing nuclear storage …… and Nike Hercules units)核とHercules 核戦闘部隊は継続保有かつ使用されていること、

 佐藤・ニクソン秘密合意は、「アメリカの沖縄における核と核戦力温存とその自由使用の保障の代償としてアメリカは沖縄を返還する」という「取引」であったことを証明している。
そこで佐藤首相は、アメリカに対して沖縄におけるアメリカの核戦力温存と使用を保障した直後、被爆国の名の下に「非核三原則」を内外に発表したのである。さらに佐藤首相が「非核三原則」の評価で受賞したノーベル平和賞は「非核三原則不存在の事実を払拭する」のに役立ってきた。では、沖縄の現実はどうか?Hercules核戦闘部隊の発着を36年間以上見続けてきた沖縄の人々の一体誰が「非核三原則」の存在など信じようか? 核論議を端から否定する者は「沖縄の米軍核戦力存在」を知っている者で、「知っていながら行った過去と現在の行動」を非難されるのを恐れている者。また、佐藤・ニクソン極秘合意書を見ることができる歴代首相が口をそろえて「非核三原則堅持」であるのは、非核三原則不存在の事実隠蔽には「非核三原則の神話」を使うのが一番いいという判断である。
 我々が日米安保下で日本の核保有について考えるとするなら、「韓国方式」の是非を論議することになるのだろう。韓国はアメリカの在韓米軍(核戦力を含む)の指揮権を要求し、アメリカは韓国が要望した2012年までの期限を2009年に早めると返答している。韓国は北朝鮮に核戦力を持たせたままで朝鮮半島を統一することで核保有国になるのではなく、北朝鮮の核は廃絶させ(発言権をなくし)、アメリカ軍の核戦力に発言権を持つことで事実上核保有国になる道を選んだのである。やがて日本にも、米軍再編成と日米軍事同盟の進展状況に合わせて、在日米軍の指揮権について議論する時が来るだろう。
 最後になるが、米軍の核と核戦力が日本に存在し、非核三原則など全く存在しない現実を認識した上で核論議をするなら意味あることだと思うが。


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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)