第407 国会議員号  (2007年4月16日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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「政治とは何か?」を教えるアメリカと北朝鮮

本年2月13日の6カ国協議の合意は、アメリカの政治戦略が“Take and Take”から“Give and Take”に変わったこと証明するものであった。アメリカは、北朝鮮が合意に従って初期段階措置履行(寧辺核施設停止・封印)に向けて行動する前にBDA(バンコ・デルタ・アジア)にある北朝鮮関連口座の凍結解除に踏み切った。すなわち、アメリカは北朝鮮に「先に」与えた(Gave)のである。そもそもBDAにおける金融制裁とは、2005年9月19日の6カ国協議合意後、突如かつ一方的(Take and Take)にアメリカが北朝鮮に課したものであり、(これは私見だが)これが北朝鮮を2006年7月のミサイル発射、10月の核実験に追いやったのである。

そして、北朝鮮のミサイル発射と核実験の結果(効果)がどんなにアメリカの国益に資したかは、くどく説明する要もないだろう。停滞していた普天間基地代替案の早期決着、日米ミサイル防衛(MD)の前倒し推進、沖縄米軍海兵隊グアム移転費用ならびにグアム米軍基地建設費の負担問題、米軍再編成への経済支援等々、アメリカが業を煮やしていた山積みの難題は一瞬にして解決した。つまり、対朝金融制裁の役目の一つは終わったのである。

冷静に考えてみれば、アメリカの対朝金融制裁は(核廃絶を目的とした)6カ国協議とは無関係のドル札偽造、マネー洗浄(マネーロンダリング)、偽タバコ等を理由としたもの。つまり、アメリカの対朝金融制裁は、ちょうど日本の拉致問題が日朝2カ国問題であると同様、米朝2カ国問題であった。アメリカは金融制裁を「一石二鳥」に使ったのである。

対日効果(前述)と6カ国協議の主導権(イニシアティブ)である。2月13日の6カ国協議を主導したアメリカは、二つの重要な点で北朝鮮と合意している。最も重要な点は「日本の拉致一点張りを容認すること」。次は「金融制裁解除を先に与える」ことである。この点は従来と今後のアメリカの極東軍事政策の存否に関わるほどの重要さを持つ。アメリカの極東アジアにおける軍事覇権を維持する上で日米軍事同盟の強化は必須。前述の諸々の日米軍事計画は何をベースに行われているのか。10年前から、また今後10年先までの自衛隊の防衛指針の敵国はどこの国か。これが北朝鮮である。「北朝鮮の軍事脅威なくして日米軍事同盟なし」なのである。それほど北朝鮮の核武装と軍事脅威は日米軍事同盟にとって重要なのである。

今回の6カ国協議合意による老朽化した寧辺核施設の停止・封印は、北朝鮮の軍事脅威をいささかも低下させるものではない。従って、北朝鮮による初期段階措置の履行は日米の軍事的利益を損するものではない。ところが、次期段階である既存の全核施設の無能力化は北朝鮮の軍事脅威を著しく低下させるので、日米軍事強化にとって大マイナス要因。そこでアメリカは先に「飴」を与える。ただ同然で飴をもらった北朝鮮は、初期段階措置を履行はするが、時間延ばしをする。こうすることによって次期段階の難しさを印象付けるのである。

時間を掛けてやっと初期段階が履行されて5万トンの重油を手にし、いよいよ次期段階履行になると、アメリカが打った「クサビ」が効いてくる。すなわち、日本の拉致一点張りである。6カ国協議に無関係の拉致問題で5か国中日本だけが(北朝鮮の初期段階措置履行にも拘らず)経済協力をしないことを理由に、北朝鮮は次期段階履行を拒否する。さらに、アメリカが2月13日の6カ国協議合意直後沖縄に配備した10機のステルス機(見えない爆撃機――北朝鮮の核施設直撃に最適)の即時撤退を求める。アメリカはステルス機には自由裁量権を持つが、安倍内閣に拉致問題を断念させる自由はない。こうして安倍内閣は存亡の危機に追い込まれる。

北朝鮮が初期段階措置の履行に踏み切るまで30日などとしているのは、ブッシュ・安倍首脳会談を見極めたい、つまり安倍に対する米国首脳の信頼度を見てからでも遅くない、と考えているからである。このように北朝鮮は常にアメリカに配慮していることを知らねばならない。結果は北の核開発は持続され、北朝鮮は日本の政情を見ながら、というより安倍内閣が既に発表されているアメリカの対日要求(アーミテージ報告書など)にいかに対応するか見極める。場合によっては再びミサイル発射等軍事攻勢に転じるだろう。

1月16日に北朝鮮から帰国した山崎拓は、安倍内閣とマスコミから総スカンを食らった。山崎は言った、「3カ月後を見てください」と。そして今月末からの大型連休中、今度は加藤紘一とまた北朝鮮へ行く。マスコミは、「アジア重視派の存在感を高めるため」などという。日本のマスコミも安倍内閣も、1月16日から全然進歩してないようだ。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)