日米首脳会談の危険度 今回の安倍・ブッシュ首脳会談は、単に形式的なもの(強固な日米同盟関係を誇張する)だけに終わりそうである。ブッシュのテキサス私邸(牧場)で日本の構造改革の指針を熱っぽく話し合った小泉・ブッシュ会談とは根本的に異なる。「表面と中身」の違いである。それはいまだに(安倍内閣後も)ブッシュが事ある毎に小泉の名を語り、故意かどうかは分からぬが、Prime minister Koizumi(小泉首相)と呼び、Former(前)を付けない。勘ぐればずいぶん安倍首相を軽んじているとも受け取れないでもない。小泉(前)首相は名誉ある米両院議会での演説を求められたが、安倍首相は「お呼び」ではない。 安倍首相の訪米を前にして待っているのは、@Mike Hondaの慰安婦謝罪要求決議 A超党派上院議員の牛肉全面市場開放。@については、4月21日の記者会見(『News Week』と『Wall Street Journal』)で旧日本軍の関与を認めた「河野洋平官房長官談話」(1993年)を継承すると述べることで、待ち構えている安倍批判を和らげようとしているが、結果は「裏目」となるだろう。一旦旧日本軍の関与を否定しておいて、「この場に及んで」肯定するのはアメリカが最も忌み嫌う手法だからだ。 Aについては、既に4月13日、松岡利勝農林水産大臣がインドでシュワブ米通商代表に会った際、日本基準(月齢20カ月以下)の固持を伝えているから、安倍首相はブッシュと議会の強い要求に応えられない。当然、北朝鮮問題が会談の主題となるが、(私が知る限り)アメリカは安倍首相の対北朝鮮基本政策はもはや受け入れられない。 アメリカは昨年11月の中間選挙を基点に「理念外交」から「現実外交」に外交手法を転換した。理念外交とは「自由の拡大」と「市場原理拡大」の目的達成のための直接的国際行動路線(軍事・経済制裁)である。行動のためには理念が必要。行動のための理念外交である。アメリカはイラクでも対イランでも、さらには対北朝鮮でも理念外交(力の政策)が行き詰まったから現実外交に切り替えたのである。 では、現実外交とは何か。それは「何もしない」ことであり、「現状維持」である。つまり、「軍事制裁や経済制裁で現状を変えようとしない」ことである。だからアメリカは対北朝鮮金融制裁を解いた後、北朝鮮が初期段階措置を実行しなくても沈黙している。「現実主義に目的なし」! である。現実主義とは何もせず待つことであり、まさに日本の保守本流そのものである。だから安倍内閣(保守本流ではない)はアメリカが決断した現実路線と相容れないのである。 安倍首相の対北朝鮮強行路線はアメリカの現実路線に相反し、安倍首相の「拉致一点張り」はアメリカの6カ国協議を通しての戦略(非制裁)を真っ向から妨害する。また、いま安倍内閣が力を注いでいる東アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)をベースにしたACU(アジア共通通貨単位)政策は、アメリカのManifest Destiny(宿命的使命=ドル支配圏拡大)に反する由々しき問題である。 このように、安倍首相の政治姿勢はことごとく現在のアメリカの路線に反する。ACUを中国と連携して推進することは、アメリカの国是でさえあるドル支配を妨げるばかりか、やがてはアメリカの存在を脅かすことにもなりかねない。安倍首相はなぜブッシュがイラクを占領しなくてはならなかったか分かっていないのだろうか。サダム・フセインがイラクの原油決済通貨をドルからユーロに切り替えたからではなかったのか。アメリカの政策立案者たちが「安倍はアメリカを理解していない」というのは当然である。 久間章生防衛相の「アメリカのイラク戦争は間違っていた」発言などは、安倍政権のアメリカ理解度の低さの表れ。お世辞のつもりか、最近久間はアメリカに史上最高値250億円もするF-22ステルス機を購入したいと伝えた。これもアメリカが最も嫌う態度である。 アメリカは安倍政権のために外交指針を元の理念外交に戻すわけにはいかない。ならば安倍政権は、はたまた日本は何をすべきなのか。「日本は日本」で突っぱねれば、日本人としては「気分」がいい。だがその結果は?6カ国協議での孤立だけでは済まない。6カ国協議合意ご破産の責任を背負わされる! いま北朝鮮が「とぼけた振りをして動かない」のは、それ(日米亀裂)を待っているから。もう安倍内閣はアメリカにとって頭の痛い存在だけでは済まなくなった。そして「安倍内閣の危機」を北朝鮮で高みの見物をするのが保守本流の新YKK(山崎拓、加藤紘一)+古賀誠である。安倍内閣、外患、内患!
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