第411 国会議員号  (2007年5月21日号)

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「単なるシバイ」の「米中経済摩擦」!

4 月25日からハワイ、カナダ(トロント)、ワシントンDCへ行き、5月11日に帰国、そして先に本稿で述べた5月14日の講演会(自民党金子善次郎氏)を終えて翌日再びトロント、フィラデルフィア、ワシントンへと目まぐるしい一週間の旅を追え20日に帰国した。

トロントはある3Dテクノロジー会社の上場のため、フィラデルフィアはコリン・パウエル(前国務長官)とリー・ハミルトン(イラク研究グループ=米中東政策を大転換させた立役者、元下院議員)が参加するある会合(米国の世界外交の基盤的機能を担う団体=詳細は追って月刊『力の意志』で報告する)に招待されたため、そしてまた、ワシントンは言うまでもなく5月22日と23日に予定されているStrategic Economic Dialogue(米中戦略経済対話)のためである。今回は、いわゆる「米中経済摩擦」を分析する。

米国側は中国に人民元改革(30〜40%切り上げやフロート制)を求め続けてきたが実効はなく、昨年は233億ドルの対中貿易赤字となり、本年第二四半期の赤字は46.4億ドルで昨年同期の2倍に膨れ上がった。米国の世論は、長期に亘る対中敵視的報道によって、中国の不当な人民元操作が自国の労働者、農民が本来得るべきだった利益を奪っていると信じ込んでいる。

こうした世論を背景に、米議会は米政府(ホワイトハウス)の対中姿勢に強い不満を抱き、「政府がやらないなら議会がやる」などと圧力をかけ続けた結果、政府は2月には鉄、4月には知的所有権問題で中国をWTOに提訴した。中国は昨年12月の第一回対話で「話し合いによる解決」を約束していながら制裁措置を求めるのは約束違反だとして、「そちらが戦うならこちらも受けて立つ」と、今年に入ってから両国間に険悪なムードが漂い始めた。

中国にとって米国は最大の輸出先であるから、ここで問題をこじらせることは許されず、14名(約半数)もの閣僚を送り込むほど今回の対話を重視している。米中会議の難しさは、中国のすべての主張・行動は共産党一党の決断に一本化されているが、アメリカの方は複雑である点である。中国の低廉な輸入品で倒産に追い込まれた企業を代表する声、職を奪われたとするアパレル工場の声、低廉な汚染野菜で市場を荒らされていると訴える農家の声、さらには選挙目当てのパフォーマンスでのチャイナバッシング、あるいは輸入増大を暗に歓迎する輸入・小売業界の声なき声もある。

ではFRBはどうか。原油価格高騰等でインフレ傾向が続く中、中国輸入品は価格引下げ効果があるのではないか。どうも中国には米国の国家としての要求が見えない。その一方で対中経済批判の声は日に日に増大し、反中感情が高まろうとしている。知的所有権の問題でも、もし中国でハリウッド映画会社製作の本物のDVDを売ったとしても、高くて誰も買いやしない。だから飛ぶように売れているのは海賊版ばかり。中国に言わせれば、売れる可能性のまったくないモノをもし売れたらと仮定して米国は損害賠償を要求するのか、ということになる。あるいは、中国から超安値で仕入れて、米国内で何十倍もの値段で売るのは米国の国益に反するのか。立派に米国の経済規模を拡大させているではないか、というのが中国の言い分である。

中国はさらにこうも言う。2005年7月から人民元の為替変動幅を0.3%(07年5月18日から0.5%)にしたが、一日たりとも0.3%までに 上昇したことがない、今日までの2年間でわずか7%しか上昇していないではないかと米国は非難するが、中国が為替介入でドルを買い支えてきたからではないのか。中国がドルを買い支えなかったら、ドル安で原油コストが上がり、今頃米国は不況の中の物価高になっているのではなかったのか。今回為替変動幅を0.5%にしたことで、さらにドル買いのボリュームが増すことになるが、米国にとってそのどこが悪いのか。米国のGDP の70%以上を占める消費に最も貢献しているのは中国ではないか。

米国の景気に陰りが出始めた今、人民元高で対米輸入が大幅減少し、物価高になって消費が減少しGDPが落ち込んでリセッションに落ち込んでもいいのか。それに米国最大の輸出先は中国ではないのか。昨年12月、北京で行われた米中戦略経済対話で、北京に新たにニューヨーク証券取引所とナスダックの事務所の開設を決めたのは、今までの為替介入によるドル買いだけでは不十分だから、マネーの自由化を進めて市場原理で直接中国市場から米国へ資金が流れるシステムを作る狙いがあったのではないか。

本当に人民元改革を実行して40%も人民元高になったら、経済的に壊滅的影響を受けるのは中国ではなく米国ではないのか。民主党は声を大にして米中貿易不均衡で中国を非難するが、民主党の支持層でもある貧困層に安い中国製生活物資が届かなくなってもいいのか。対外債務、貿易赤字補填のために米国が乱発を続けざるを得ないドルを買い支えながら、ドルを高値に保っているのは一体どこの国なのか。

つまり、対中貿易赤字がいくら増えても、中国がその分ドルを買い支えている限り、米中貿易収支不均衡とその元凶とされる人民元改革も「騒ぐ」に当たらないのである。実際は米中経済には摩擦はなく、恒常的に増大する米国の貿易収支赤字は、恒常的に増大する中国の外貨準備で恒常的にドルを買い支えることで補填されている。ややインフレ気味の米国の物価も低廉価格の中国輸入品が緩和している。米中経済に摩擦なし! 以上のような(世論の認識に反する)「本音」の対話は出来ないが、中国がどこまで米国の政治的事情を理解し、米国の「シバイ」にお付き合いができるかが今回の見所である。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)