第416国会議員号  (2007年7月2日号)

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アメリカに捨てられた安倍政権

昨年の夏、福田康夫氏が自民党総裁選出馬を断念し、ポスト小泉が安倍晋三氏に事実上確定したことから、私はワシントンD.C.でジョージ・ワシントン、プリンストン、アメリカンユニバーシティー等々の大学と10以上の一流シンクタンクを訪問していた。目的は安倍晋三氏に対するアメリカの政策担当者たちの意見を聞きたかったからだ。全員の意見を集約すると、「若さに対する期待と不安」と全員がアメリカとの対話ができる内閣になることを希望していた。日本通のライシャワーセンターのケント・カルダー所長は常日頃「日米会話のなさが日米最大のリスク」と断言していた。

 安倍内閣は発足早々「自由と繁栄の弧」なる外交指針を打ち出した。これはアジア、太平洋、ヨーロッパにいたる地域で、民主主義の遅れた国々の民主化を支援しようというものである。私も「野心なき大東亜共栄圏」などと評価したものだ。この安倍内閣の新外交指針は、アメリカの世界戦略「自由の拡大」と一致するもので、アメリカでも好感された。

ところが、安倍首相は小泉純一郎前首相の「アメリカ一辺倒」のイメージ払拭のため、歴代首相のほとんどが就任直後に日米首脳会談を「いの一番」にしたのに反して、訪米を「後回し」にした。安倍首相は事前に「会話」を通してアメリカに充分な理解を得ていなかったため、アメリカに「不快感」を与えてしまった。そこへ、私が本稿(07年2月4日号)で採り上げた久間章生防衛相の発言問題が起きた。「アメリカのイラク戦争は間違っていたのでは……」。さらに、米軍再編成の対日経済協力の要請について、「押し付けがましい限り……」である。これでアメリカの対日不快感は一層増幅し、アメリカは「日米会話」を完全に断念し、日米同盟は機能しなくなった。

もし安倍首相がこの重大な日米関係の危機に気がつき、日米信頼回復のため久間大臣を罷免していたら、救われたかもしれない。ところが実際は辞任勧告さえすることなく、むしろ擁護する有様だった。こうして安倍首相はアメリカに見捨てられ、アメリカは対安倍内閣戦略を「会話(理解)から強制」へと転換した。


日米懸案事項の即時解決

5年の段階で、日米間には懸案事項は山済みになっていた。沖縄普天間基地の代替問題、沖縄米海兵隊のグアム移転費用負担問題、イージス艦早期配備、MD(ミサイル防衛)、さらに米軍製編成に対する日本の経済負担問題等々が遅々として進まず、合意決着に至っていなかった。

会話を断念したアメリカは、対北朝鮮金融制裁で北朝鮮をミサイル発射(06年7月)と核実験(10月)に誘導して、安倍晋三氏(当時官房長官)を極度なまでの北朝鮮強硬路線に走らせると同時に、日米間の懸案事項はアメリカの期待を上回る結果となって解決を見た。

7月1日のフジテレビ(「報道2001」)で、またしても久間防衛大臣は、「原爆を落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で、今、しょうがないなと思っている」と発言したことが報道された。続けて「ソ連が日ソ不可侵条約を犯して日本に参戦しようとしていることを日本は知らず、アメリカは知っていた。アメリカはソ連が対日参戦することを恐れて、8月9日に長崎に原爆を落とした。そうすれば日本も降伏するだろうし、ソ連の参戦を止めることができるだろうと思ったからだ」と「原爆しょうがない発言」の言い訳(詭弁)のなかで語った。

日本はソ連が参戦することを知らなかったのだから「しょうがなかった」というのが、自分の発言の真意だったという「詭弁」である。久間氏は第二次大戦の戦後処理をアメリカ、ソ連、イギリスの首脳で決めた「ヤルタ協定」(1945年2月)をご存じないようだ。

戦争終結を急ぐアメリカが、北方四島のソ連領有を認めることで、ソ連に日ソ不可侵条約を破って対日参戦を強く求めていたではないか。ヤルタ協定の決定(密約事項)を日本は当然知っていた。「アメリカはソ連が対日参戦するのを恐れ」ていたのですか……、これでは久間大臣は中学生にも笑われる。

安倍首相は、「久間さんは当時のアメリカの立場を説明したかったのでしょう」と久間擁護。アメリカから「でたらめを言うな」と怒られますよ。さらに久間大臣曰く、「長崎に原爆を落とせばソ連の参戦を止めることができるだろう」。「ソ連が対日参戦をしたのは長崎投下1日前の8月8日」ですが。

久間氏が防衛大臣に就任してからの問題発言の数々を分析すると、無知、無教養、無論理。つまり、政治家としては「病人」なのである。病人を非難することはできない。非難すべきは病人を防衛大臣に任命した安倍首相である。


さらに続くアメリカの安倍落とし

マイク・ホンダ(米下院議員)は下院・アジア・太平洋外交委員会(私の知人フォレオマガベインガ氏が委員長)で決定した対日慰安婦問題謝罪請求案を、日本の参院選直前に本会議を通過させるだろう。

また、アメリカは参院選前に北朝鮮核廃絶のための6カ国協議主席会議を開いて、初期段階措置の履行確認を前にして、北朝鮮に日本の「拉致問題の進展なくして経済協力なし」を批判させ、日本が拉致問題を断念しなければ次段階措置履行は難しいと主張させる。

せっかく5カ国が北朝鮮の核廃絶に向けて一歩を踏み出したのに「安倍首相が潰した」、「核廃絶を口にしながら、やっていることは正反対だ」を日本の国民に見せつけ、安倍首相を窮地に追い込もうという戦略である。安倍晋三氏個人にはお気の毒だが、今や安倍内閣はアメリカにとってあってはならない内閣になり下がった。アメリカも日本の国民も政界再編成を願っていることを知るべきである。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)