第417国会議員号  (2007年7月09日号)

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「官邸主導」に走った安倍晋三首相の悲劇

官邸主導政治は官邸主導の「特権」なくしては不可能である。官邸主導の特権の第一は与党議員に対する支配力である。首相が官邸の方針に反する議員を即刻排除できるだけの力を持たねばならない。第二は官僚に対する支配力である。官僚を官邸の意図通りに動かし、官邸に絶対服従させる力を持つこと。第三はマスコミに対する支配力である。マスコミに官邸の方針通りの報道をさせる力を持つ。以上の力なしに官邸主導政治は無理である。

第一から第三は政治家にとって夢のように映るだろうが、実際、小泉首相秘書官飯島勲氏は(財務省からの秘書官丹後氏とともに)見事にやってのけたではないか。第一においては、総裁選で最も世話になった田中真紀子(当時、外相)を斬って捨て、全大臣に「明日は我が身」かと思わせて大臣勢を統率。さらに、郵政民営化法案を参議院で戦略的に敗北に誘導して衆院解散の足掛かりにした。その上で官邸の意に従わない抵抗勢力を一掃、小泉チルドレンと入れ替えて与党を完全に官邸の支配下に置くことに成功している。

第二は検察情報などで官僚に恐怖を抱かせ、一方では出世カードで官僚を惹きつけながら、結果的に官邸に服従させた。第三のマスコミ対策において、飯島は従来の政治ターゲット外のコミック、スポーツ等の大衆メディアにアプローチして芸能的、大衆的小泉人気を創造した。電車の中で民主党の年金政策を読む者と松井やイチローの記事を読む者と、どちらが多いかに着目したのである。人気に最も大きな影響力を持つテレビの弱点(やらせ情報など)を握り、一方では視聴率向上に協力するなどしてマスコミを手足のごとく使った。

政治上「人気」はよく売れる薬と同じ原理。優れたイメージのネーミング、パッケージ、効能書き、それに最も大事なのが(○○なしに、○○はないという)明快なキャッチフレーズ。小泉純一郎氏は飯島秘書官というディレクターによって見事なヒット商品に仕立て上げられたのである。今や政治の世界では人気は権力になったのである。 

小泉氏が選挙区に行くと行かないで当落が決まったのだから、小泉人気は政治家になるか、ただの人になるかを決定する権力であった。小泉官邸主導政治はこうした権力構造から生まれたのであった。

 安倍晋三首相は小泉前首相のような人気がないから権力がない。安倍官邸秘書官達に大臣を土下座させ、官僚を怒鳴りつけ、マスコミに、財界に脅しを掛けることのできる者はただの一人もいない。したがって、安倍政権にとって官邸主導政治はいわば空想に過ぎず、小泉官邸主導政治を引き継ぐことは無理だったのである。6月6日、ハイリゲンダム(ドイツ)G8は無理の実例である。理由は先の本稿で述べたので割愛するが、G8の結果を報じた首脳たちの写真(英国のタイムズなど欧米一流紙)に日の丸と安倍氏の写真が排除されたのを見れば、安倍首相の言う「G8大成功」が正しいかどうか明白である。権力なき官邸主導外交の失敗例である。

小泉首相が田中真紀子を斬り捨てたように、本年2月に久間防衛大臣を罷免できなかった時点で、安倍首相は官邸主導政治のチャンスを失った。安倍人気があったとすれば、わずかに官房長官時代の北朝鮮強硬姿勢だろう。これも今やアメリカの政策転換で安倍氏の強硬路線が6カ国協議では厄介な存在になる始末。アメリカの支持もなく、国内では悪材料ばかりが山積み。

小泉氏が郵政民営化を使ったように、もし安倍氏が今回の選挙を衆参両院総選挙にして「憲法改正選挙」に踏み切れば(民主党は賛否両論で割れているから)勝つチャンスはあるが、時既に遅しである。ディレクターなき安倍政権は「商品化」されていないし、商品化できる可能性もない。キャッチフレーズもない、形もない、中身もでき上がっていない未完成品(安倍内閣)を買う消費者(国民)はいないのである。

それにしても小池新防衛大臣任命には驚いた。小池氏は英語も堪能でアメリカの国家安全保障委員会のメンバーにも人脈がり、アメリカからも日米で会話ができる数少ない人材と嘱望されている貴重な存在。 

その小池氏を防衛大臣にしたのでは、せっかくの会話ができなくなる(大臣は表向きの会話。真の会話は黒子役がするもの)。またもや久間氏同様ミスキャスティング。

とにかく、ここまで来たら小泉先輩の哲に従って、すべてを投げ出して衆参両院解散で政界をぶっ壊すしかないのでは。そうすれば、政界再編制の流れが起き二大政党制の芽が出るかもしれない。せめてそれくらいの貢献はしてもらいたいものだ。


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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)