第452  国会議員号  (2008年01月31日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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米国は世界覇権と景気維持に万全!

FRBバーナンキ議長の心境が、そのまま今の米国経済を表しているといっても過言ではないだろう。成長減退を止めようと利下げを加速すればインフレが加速する。財政政策による景気刺激策も中東軍事費増大の煽りで16兆円にとどまる。“Too late too small”などと言われても仕方がない。このままだとスタグフレーション(Stagflation 景気後退・インフレ同時混在)という最悪の事態になるという声が増えてきた。

こうした危機感は往々にしてスパイラル化する傾向がある。こうしたときは慌てず、「政治・経済の基本」に立ち返ってみることが大事である。私が日米経済について昨年から繰り返し述べてきたのは、「米経済は外需、日本経済は内需依存へ移行」である。2006年までの米経済は、住宅ブームが牽引役となって内需が景気を押し上げた。日本経済は米国の内需拡大を背景に輸出を伸ばし、外需依存型好況であった。

私はまた「2007年は変化の基盤ができる年、2008年は変化が起きる年」と言ってきた。2007年はサブプライム問題の顕在化とクレジット・クランチ(Credit Crunch信用収縮)で米経済は内需型景気の終焉を確認し、連続利下げ、ドル安是認で内需から外需依存型経済への移行準備が完了した年である。2008年は米国がいよいよ外需依存型経済を推進する年である。

FRBによる金融政策は、信用収縮による金融機関の資金繰り悪化の救済措置に過ぎず、一時的米経済の牽引役不在による景気後退を止める機能はない。また、ブッシュ大統領が打ち出した16兆円の景気刺激策も、まさにToo smallで、いまだに止まらない不動産価格下落による世帯の資産価値下落と、その結果落ち込む消費を回復さけるだけの力はない。まさにBetter than nothing(やらないよりはいい)でしかない。

したがって、米経済を完全に外需依存型に変えてしまうには、小手先でなく大胆な国家戦略がなくてはならない。私がイスラエルでの国際会議(Herzliya Conference:1月20〜23日)で、米国の主要シンクタンクや米政府代表と話し合ったのはまさにこの点であった。たしかに外需拡大のためドル安は有利であることに疑いはない。しかし、読んで字のごとく外需依存とは他に依存することであって、リスクであり保証はない。「米国は、不況どころか不況とインフレ共存の最悪の事態に落ち込むかもしれない瀬戸際で、他国経済に依存するような国ではない!」のである。

「依存」「従属」以外に術を知らないどこかの無責任国家とはわけが違うのである。私は米政策担当者に言った。米国が今こそすべきことは、「押し売りだ」と。すると当然のことだが、「しているよ」との答えが返ってきた。


最高の景気セールスマン・ブッシュ大統領

2007年2月以来、中東諸国は米国から武器購入を続けている。今回の国際会議の数日前、ブッシュ大統領はイスラエルはじめ中東諸国を歴訪した。ブッシュ大統領は昨年11月、米国アナポリスで中東諸国と関係国40カ国以上を集めて中東和平会議を開き、本年末までに中東和平条約を締結することを決議した。しかし、こうした米国の和平攻勢も中東紛争の原因となっているイランを除外したものだから、仮に和平条約が締結されても中東に和平が達成されることはない。

米国の中東和平攻勢は、むしろイランの孤立化が狙いであることは言うまでもない。さらにブッシュの訪問前、ホルムズ海峡での米艦とイラン海軍との緊張もあり、今回の中東訪問でブッシュ大統領は、サウジの2兆円をはじめ各国からさらなる武器の買い増し注文を得た。ブッシュの武器押し売り外交と言ってもいいのではないか。


米国大統領選挙

私は前回の米国の大統領選挙について、ブッシュが当選することを確信していたから、ある出版社と冒険をしたことがある。大統領が決まってから出版したのでは間に合わない事情があり、ブッシュ当選を前提とした(ブッシュ大統領の名前を入れた)本を出したことがある。

私は、米国では大統領選も国家戦略の一環と考えている。もし今年11月に本を出版することがあれば、共和党のマッケイン大統領の名前を入れるだろう。仮定であるが、もし第五次中東戦争が起きるとするなら、誰が大統領として最適か。共和党か民主党か。国家が戦争をするとき、政治は「ねじれて」いてはいけない。戦争なら共和党、そして今の共和党候補の中で超党派政治ができるのはマッケインしかいない。


米国経済牽引産業は何か

住宅産業は内需で経済を牽引するのに最も適した産業である。新築住宅にどれだけの耐久消費財や建設材料が使われるかを考えれば分かる。それでは、最適の外需牽引型産業とは何だろうか。言うまでもなく、他産業への波及力が最も大きい軍需産業である。2002年から2006年まで続いた米国の内需依存型好況の次に来るのは、いや来ているのは、外需拡大保証付き産業、いわば米国の押し売り産業ともいうべき軍需産業景気である。今日の米経済を評するなら、「景気が後退する」ではなく「軍需景気が進行する」と言うべきである。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)