世界中が考え違いをしている 株価にその影響が現れたのは2007年8月からであるが、米国で実際にサブプライム問題が顕著になり始めたのは2006年2月からである。2007年8月から米国、欧州、日本等主要国の株価は下落を続け、今なお回復の兆しは乏しい。いま経済専門家と市場での懸念は米国経済はリセッションに陥るのかどうかであり、悲観論と楽観論が交差している。私は、「リセッションにはならない」と答えている。 それは楽観、悲観の問題ではなく、私の米経済の見方が彼らとは根本的に異なるからである。添付したグラフを見ていただきたい。1996年から2000年は米国経済の最盛期で、MEW(Mortgage Equity Withdrawal=信用余力による消費支出)を差し引いたGDPの平均は年3%で、GDP発表値は平均4%を超している。ところが、2001年にITバブルが崩壊すると、MEWを除いたGDPは2001年と2002年はマイナスになった。米経済のリセッション入りである。 2002年から2006年まで、GDPを見るかぎり名目上は急成長しているが、住宅価格高騰(バブル)によるMEW(消費バブル分)を差し引けば、平均0.7%の超低成長が続いていたことになる。すなわち、2002年から2006年は好況が続いていたのではなく、リセッションが続いていたのである。 2007年から今日まで、まだ米国の住宅価格は下がり続けているから、リセッションは続行していることになる。したがって、市場で論議すべきは米経済がリセッションに陥るかどうかではなく、いつリセッションから抜け出せるかでなくてはならない。これが私と一般の市場関係者との米国経済認識の違いである。経済の見方を誤れば経済の予測も誤るというものである。 米国はリセッションから抜け出せるか それは今後、米国の住宅価格がいつ下げ止まるかに懸かっている。現在は全米住宅の2.8%に当たる218万軒が空き家で売りに出されているが、リスティング(不動産協会への売り希望登録)してないPrivate Sale(不動産業者を通さない売り手と買い手の直接セール)を加えると250万軒に達する。 確かにFRBの連続利下げはMEWが消滅するのを防ぐ効果はあるが、消費を増大させるまでの力はない。さらに問題なのは、住宅ローンの焦げ付きによる競売の増加である。競売に付された件数は、2006年には全住宅の約1%に当たる130万軒、2007年には200万軒に達したと思われる。大方の予想では、米国の住宅価格は今後さらに20%は下がるという。 しかし一方、長期化する住宅価格低迷に伴い、不動産の売買件数が増加し始めている。これは明らかに、下げ過ぎている住宅に買いが入ってきたことを表している。不動産市場に自律調整作用が働き出したと言える。 FRBの金融政策は、基本的には金融機関の資金繰り支援であり、それは住宅含み資産の消滅を若干防ぎはするが、消費には無力。しかしながら今回、ブッシュが打ち出したタイムリーな財政政策は消費に好影響を与えるだろう。16兆円の経済活性化対策による各世帯への戻し減税小切手の配布は、短期間とはいえ間違いなく直接消費増に繋がる。 いま米経済はちょうどリセッションから脱却して好況へ向かうターニングポイントにある。くどいようだが、米経済は不況に向かっているのではなく、すでに7年も続いた不況から脱却するところなのである。「軟着陸」とか「緩やかな成長基調にある」などという言葉が出てくるのは、米経済の根本認識が間違っているからではないのか。
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