第454  国会議員号  (2008年02月18日号)

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バーナンキ(FRB議長)にモノ申す

もう一度認識してもらいたいこと、それは前回の本誌(2月6日発信:第453号)で指摘した通り、「アメリカ経済は2001年から2006年まで高成長したのではなく、リセッションに陥っていた」いう事実。MEW(Mortgage Equity Withdrawal)という資産バブル効果を差し引いた2001年と2002年の真水の成長率は平均で約マイナス0.85%成長。

2003年から2006年は平均0.75% の超低成長であり、間違いなくリセッションであった。

そのリセッション期間(6年間)中に2004年6月以降FRB(米連邦準備理事会)はFOMC会合のたびに連続17回0.25%の利上げを続けたことを忘れてはならない。それは確かに信用バブルを崩壊させる効果はあったが、一方ではリセッションを根深く定着させてしまった。サブプライムローン問題という形で現れたCredit Crunch(信用収縮)とそれに伴う実体経済へのマイナス影響に対処するため昨年8月からFRBは公定歩合の引き下げと、9月以来2.25%のFF金利の引き下げを行う一方、財務省は緊急景気刺激策として16兆円相当減税(払い戻し税)の実施を発表した。8月からの金融緩和と9月からの利下げはドル安圧力となり、以後今日までドル安が続いている。昨年末以来の急激なドル安は商品市場におけるドル表示商品価格の高騰をもたらすことになり、特に生活に密着したガソリン代や食料品の高騰をもたらし、インフレ圧力を一層高めることになった。3月18日の市場関係者によるFOMCの利下げ予想は0.5%以上が100%、うち0.75%以上が約40%となっている。また4月30日のFOMCでも0.5%以上の利下げ予想は100%となっている。バーナンキ議長の金融政策は目先の景気対策重視、インフレ対策後回し型になっている。バーナンキ議長の大きな間違いがここにある。まず議長に、「今なすべきことはリセッション突入を防ぐことではなく、現行のリセッションから脱出することである」という認識がない。次にFRBはいかなる場合も「インフレ退治を最優先にする使命がある」という鉄則を忘れている。つまり「FRBの指針の欠如」である。また議長は「相場の習性」を無視している。「相場の世界でリセッションから脱却する王道は、落ちるところまで相場を落とすこと」である。「相場に底を打たせること」である。

前回のFOMCの期日前の緊急利下げなどは市場に引きずられて、FRB本来の指針を忘れた議長としてあるまじき判断である。だから市場は今日でもネガティブに反応しているのである。

小麦は2006年の$3.00(per bushel)から、今$11.00で366%、原油は2002年の$20.00から今$95.00で475%、ゴールドは2001年$250.00から今$920.00で370%、等々で米国民はもはや生活水準を上げることなど到底できない。さらにサブプライム問題で住宅関連金融機関は新規住宅融資が難しくなっているから、賃貸住宅需要が急速に伸びて家賃は高騰している。その結果は可処分所得の約30%を占める家賃支出の増大となり、さらにその結果は他の分野への家計支出減少となり、消費減退となる。家計の大部分を占める家賃の上昇は一層インフレを加速させ、インフレ加速、消費減退という最悪の事態になる。インフレはある時点からスパイラル化すると政策では止まらなくなる性質がある。手がつけられないインフレに陥ったときどこの国でも必ず戦争をすると歴史が教えてくれている。

バーナンキ議長は「とんでもない冒険」をしていることになる。議長の冒険の先に見えるのは、1929年アメリカを襲った世紀の大恐慌である。


ここで1929年と2008年を比較してみよう

1920年代アメリカ経済は過剰生産に陥ろうとしていた。今日ではアメリカに代わって中国が過剰生産状態でアメリカは過剰消費(住宅バブルを含め)になっている。

1920年代は過剰信用膨張、住宅バブルに陥った。今日とまったく同じであった。

1920年代は信用が膨張し生産に必要な信用の限界をはるかに超えていた。今日も同様。

1920年代は設備投資を必要とするだけの需要はなかった。今日も同じである。

バーナンキFRB議長が今すぐにもしなくてはならないことの第一は、「市場との会話」ではなく、リセッション下におけるインフレ退治政策である。FRBは政治から独立して、あるときは市場を無視してでもインフレと戦わなくてはならない。このままだとリセッション下のインフレ、すなわち経済にとってもっとも恐ろしいStagflation(不況とインフレの混在状態)という取り返しのつかない状況に陥る可能性が高い。勇気の要ることだが、仮に3月18日に市場の期待に反して0.25% の利上げをしたら市場は暴落を繰り返し、間違いなく「相場は底を打つ」だろう。利下げも景気浮上政策もそこ(底)からすべきであって、市場に引きずられた政策は市場の混迷とインフレを加速させるだけである。仮に利上げをしなくても、利下げをしないだけでも相場は底へ向かうだろう。そうすればバーナンキ議長は、グリーン・スパン前議長に負けない市場の信任を勝ち取ることができるだろう。それともバーナンキ議長は自分の責任と使命を回避して政治に世界戦争を求めているのか。

2008年の投資先は比較優位論からして日本しかない。詳しくはテープ・CD等の解説をご参考ください。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)