第573号(2010年01月25日号)

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アメリカのたった一州の選挙結果でアメリカ経済が大転換する

オバマ大統領が就任して1年目に当る1月20日、マサチューセッツ州での民主党重鎮エドワード・ケネディー上院議員(他界)の後任を決める選挙結果が判明した。同州は歴代民主党の票田であったが、今回は地殻変動が起き共和党のスコット・ブラウン氏が民主党のマーサ・コークレイ女史を大差で破り勝利した。本選挙は今日までの民主党政治とオバマ大統領の看板政策である健康保険改革法の是非を問うものであった。共和党が上院で一議席増やした結果民主党は上院議員総数100名中60名から59名に転落したため、Filibuster Proof Majorityと言う上院の慣例の絶対法案議決権を失った。(今や59議席になったため一人の議員が決議にストップをかけられる)
結果懸案の健康保険改革法案を作り直して再上程するか変更決議をするかに追い込まれることになった。同法案の法律化のためには今後上下両院で数ヶ月の時間を要することになる。このためオバマ大統領の原案は共和党の思惑通り骨抜きになる可能性が強くなってきた。今回アメリカのたった一州での選挙結果がオバマ大統領を窮地に追い込むと同時に大統領就任一年の成果が厳しく追求されようとしている。

オバマ大統領の不況対策をどう判定するか

オバマ大統領がガイトナー財務長官とFRB議長バーナンキの英知を結集して実行した不況対策は果たして成功したのだろうか。私はFRB演出のマネー(金融)バブルで金融資産を膨張させ続けながら実体経済の浮上に繋げようとするオバマ大統領をマジシャンと揶揄した。投資家の景況感(楽観主義)をいくら煽って株価を高騰させても消費の伸びに結びつくことはなかった。オバマ大統領、ガイトナー財務長官、バーナンキFRB議長がいくら笛を吹いても踊ったのはマネーの運び屋(銀行)だけだったのである。財源を超える国債の増発を続ければやがて財政破綻に陥る。アメリカの借金の財源は増税と国民又は外国からの借金である。オバマ政権は外国から借金を増大化することで国内の増税を避けようとしたが、従来米国債最大の買手であった中国と日本が2009年から買い控えに変更、産油国やイギリスもほとんど買わなくなった。
そのために起こった財源不足を埋めるためオバマ政権は幸い家計の貯蓄性向が異常なほど上がっていることから急遽国民に国債の販路を変更した。その結果米国債の保有率は今や70%近くが国民になった。さらに投資家は連日のNY株価の上昇でリスク投資(株)に誘導され今や米国債と米国株を買い過ぎて手持ち現金は底をつきつつある。現状のポジション下で株価が急落すると買い支え余力のない投資家は一斉に売りに追いやられるので株価暴落に繋がる可能性が高くなっている。

オバマ大統領の金融政策路線変更

結局FRBが供給した膨大な資金はFRB、銀行、市場を空回りしただけで実体経済を押し上げることに結びつくことなく失敗に終わった。それにもかかわらずオバマ政権は再び景気刺激策約50兆円を10月まで継続することを決定した。正に失敗したバブル戦略の繰り返しである。最近オバマ大統領の銀行に対する態度が急変した。銀行の資金運用の規制強化と銀行が景気刺激策を利用して得た利益で法大な役員報酬を払ったことなどを非難すると共に、今後厳しく資金回収を求めると発表した。これはオバマ大統領が銀行、保険業界との協調路線のガイトナー財務長官から銀行に投機規制を強いる強硬論を主張してきた大統領の経済アドバイザー・グループを代表するボルカー(元FRB議長)に路線変更をしたことを意味する。FRB議長次期連投の議会承認を得るためにはバーナンキ議長は近々ゼロ金利と超緩和政策の変更(出口戦略=利上げ)を発表すだろうし、ボルカーに歩調を合わせて銀行引締めに回らざるを得ないだろう。これでNY株価の更なる上昇の可能性が絶たれたのである。

マネー・バブルの推移

オバマ大統領は昨年2月TARP(不良債権救済措置法)の議会承認後不況対策費として$787 billion (約70兆円)の支出を決定すると同時にFRBはゼロ金利政策と量的緩和政策を実行した。その結果3月からNY株価は高騰し2010年1月10日には年初来高値10,767ドル(昨年3月から約70%アップ)となったが、私が「ここ一番!」でNY株価の下落を予告した1月15日からNYダウは下げに転じ1月22日には10,173ドルまで下げた。私の指摘日からわずか6営業日で約600ドルも下げたのである。今回のオバマ大統領の対銀行強行策やバーナンキFRB議長の利上げ観測発言は明らかに私が言う、投資家を「屋根まで押し上げておいてハシゴを外した」ことを意味する。
私はここ半月間ほど、売り逃げと、「君子危うきに近寄らず」を何度も繰り返しアドバイスしてきたので、私のアドバイスを参考にされた投資家は、今後NY、ニッケイ株価が急落しても被害はないと思う。

戦わざるを得ないオバマ大統領

オバマ大統領は前期ブッシュ政権との政策の違いを明確にせず、支持団体である労働組合を中心にした左翼系との協調を明確にし過ぎたため保守派を代表する共和党との協調を難しくした。また民主党は上院で法案決議権60議席を持ち下院で過半数を確保していたので共和党との協調が必要無かったのも事実であった。ところがケネディー上院議員の議席が共和党議員に代ったことから事態は一変したのである。今後のオバマ大統領は共和党、保守勢力に協調を求めても受け入れられないので、さらなる対立を深めざるを得なくなる。また対外的にも、アメリカの失業の根源である中国の輸出に関税障壁を課した(昨年9月)ことから中国との関税報復合戦を強いられている。今や国内、国外でオバマ大統領は協調なき対立に追い込まれ孤立の道に向かおうとしている。オバマ大統領の人気はNYダウと連動して一気に下降線に突入しようとしている。


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