第608号(2010年10月01日号)

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嘘と真の世論政治

9月27日の本誌でAmerican Job Creation Act 2004(海外の米国法人の余剰利益を国内に還流するための税削減法)が再開されるかもしれないというGood Newsをお伝えしたが、今度は9月28日下院に中国輸入品に対する関税制裁法案が提出されたことについて述べたい。
これはもし商務省が、中国政府が人民元安の市場操作をしていると認めればオバマ大統領は何時でも中国輸入品に関税制裁を掛けることができるというものである。
これはオバマ政権の基本方針である「大きな政府」の一貫とも言える。
アメリカでは、アメリカの雇用が中国に輸出されるとか、中国の低価格の輸入品でアメリカ企業が倒産に追い込まれていると広く信じられている。
そのため人民元安の対抗策としての、対中制裁を正当化する世論が生まれる。
中間選挙を目前とした議会での対中輸入品制裁は国民の支持を得ることは間違いなしである。
事実は小説より奇なりと言うが、実際アメリカ企業は中国製品と価格で競争しようなどとは考えてもいない。中国に出来ない分野で競争をしているのである。
また中国からの輸入が増えるほどアメリカの雇用は増大している。
通貨が高いか安いかを決めるのは国内の生活水準と賃金の国際比である。
だからアマとプロが一緒にプレーをする(人民元を自由化する)わけにはいかないのである。
こうした国際自由経済と通貨の原則はわかり難く、わかり易いのは「円高は貿易大国日本(日本は貿易大国でなない)にマイナス」、「人民元安はアメリカ経済にマイナス」である。
マスコミはわかり易いのが大好きだから世論はわかり易い方になる。
世論の支持を得るためには「事実無根」の主張や法案までが必要になるのである。
日本の生活水準と賃金がアメリカに追い付いた時、円は自由化した。
中国の生活水準も賃金も日米の水準にはほど遠いので人民元がドルとのペッグ制から解放され自由化するのは当分あり得ないのである。
中国、アメリカ、日本がハンデ無しでゴルフをしたらまったく面白くないが、それぞれハンデを持ってプレーすればテレビ番組になるというもの。
American Job Creation ActはGood News であるが対中輸入品制裁法案はBad Newsである。


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