Straight from shoulder By TOSHIO MASUDA
International Econo-Policical Advisor November 21, 2011
(海外シンク・タンク向け英文の翻訳)
ドイツの宿命、三度目の正直
ドイツは、ローマ帝国崩壊以来一度も統一されたことが無かったヨーロッパを再統一することがManifest Destiny(国家の宿命)と決め第一次、第二次世界大戦を戦ったが膨大な犠牲を残しただけに終わった。
1999年に始まったEU(ヨーロッパ連合)とユーロ共通通貨体制に隠されたドイツの悲願が存在していた。経済競争力、イノベーション、通貨信用度において劣るヨーロッパの国々にドイツ並みの信用力のある通貨(ユーロ)を与えれば、ユーロ圏に信用バブルが起き、当然不動産バブルが誘発されることは元よりドイツの知るところであった。ドイツの読みの通りユーロ圏国家は不動産バブルの波に乗って成長(バブル化)路線を走ったのでユーロ導入後、特に南欧諸国はドイツからの輸入が急増し経常収支が悪化、双子の赤字が累積していった。一方、ユーロ圏諸国はユーロ共通通貨の恩恵で実体経済の実力以上の好条件で借入が出来るようになったことから双子の赤字を安易な国債発行(借入)を繰り返すことで埋めていった。その結果が今日の財政破綻状態であり国債デフォルト危機である。今やドイツ以外のユーロ圏の国債の利回りは危険水準の7%に達し、フランスの国債利回りまでも急騰しドイツとの金利差(スプレッド)が拡大している。今日のユーロ圏の財政と国債の状況を見ているとまるでユーロ諸国はドイツという太陽の引力に引かれながら回転する惑星のようである。ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペイン、さらにはフランスまでも財政危機に追い込まれ、今後、緊縮財政を強いられることになるので、ただでさえマイナスのプライマリー・バランス(歳入と歳出のバランス)は今後一層悪化する。
その結果、将来自力での国債返済は不可能になるのは明らかである。すなわちドイツ以外のユーロ圏諸国はすでに潜在的国債デフォルト国家である。ユーロ諸国が今後一層財政健全化に向けて歳出削減、増税、リストラを行えば益々国民の反対運動が激しくなり、財政健全化の実行は難しくなる。ユーロ諸国の国債デフォルトが目前に迫っている中で最後の貸し手と目されるECB(ヨーロッパ中央銀行)の国債買い取り等の思い切った支援が求められるがドイツの強い反対で難しくなっている。またIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)行使を求める声も多いがIMF理事会での拒否権を持つアメリカの共和党が反対だからこれも無理。ユーロ体制が崩壊すればヨーロッパにおけるドル復活のチャンスが生まれるのでアメリカがIMFのユーロ圏支援に反対するのは当然である。
まるでユーロ圏諸国を財政破綻と国債デフォルトに追い込もうとする強い意志が働いているようである。
11月16日、EU首脳は今後EUが加盟国の財政を監視するだけでなく直接関与する権限を持つことを加盟国全体で検討することを決めた。
当然背後にドイツのEU帝国化への強い意志が働いているのは言うまでもない。
一挙にユーロ諸国をEU帝国化のコンセンサスに誘導するにはギリシャを国債デフォルトの生贄にしてユーロ圏を恐怖のドン底に陥れればことは足りる。
ドイツが何に賛成し、何に反対するか知ればEU帝国の盟主を目指すドイツの野心が見えてくる。
ヨーロッパがEU帝国になれば、アメリカに「古いヨーロッパ」などと言われることもなくなり、日本にとってもドイツはかつての同盟国、ヨーロッパが一層近くなる。アメリカにとっても煩い老人達の口塞ぎ(ふさぎ)になる。
今後のヨーロッパの政治プロセスは、先ずは来年早々生贄ギリシャの国債デフォルト、さらにイタリア、ポルトガル、スペインの国債デフォルト騒ぎ、そしてEUによるヨーロッパ諸国の財政統合、EU帝国誕生という順序。
アメリカの大統領選を前に世界はあわただしくなりそうである。
Mr. Obama大統領が選挙戦で提唱した、「21世紀の変化」がアメリカではなくヨーロッパで起ころうとしている。
日本、「待てば海路の日和かな」。
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