特集、森本 敏 新防衛大臣
野田総理が森本氏を防衛大臣に任命したことは大ヒットだと思う。
氏は防衛大を卒業後防衛庁入省、1979年外務省入省、情報調査局安全保障政策室長を歴任後、野村総合研究所主席研究員を経て2000年より拓殖大学国際開発部教授で現在に至っている。
私はかつて私が主幹を務める雑誌で森本氏と対談をしたことがある。(2006年)対談は日本の防衛、外交、マスコミから日本の文化、精神にまで及んだ。以後諸メディアや書籍等で氏の考えに接してきたが対談で語られた通り一切ぶれることなく以前より一層国を思う気持ちが強くなられたように思っていたところでの今回のご就任であった。
ここに紹介する氏とのいくつかのやり取りから氏の強い信念、主張、強い思いを知ることが出来る。
対談の抜粋
増田:今日の日米関係についてどのようなお考えをお持ちですか。
森本:三つの問題があります。一つはアメリカとのあらゆる階層、政、官、民、財に亘って日米間のチャネルが確保されていない点です。そのためにアメリカにおける日本の地位が低下しています。ワシントンD.C.で日米関係の会議を開いても日本のプレスと日本人関係者が来るだけという惨状です。各界の交流を積極的に強める必要があります。二つ目は日米間の議員交流が薄いことです。80年代は米上院、下院団を日本に招くツアーをよくしたものですが無くなりました。今アメリカの国会議員が日本のことをほとんど知らないという状況が生まれています。 三つ目は最も深刻な問題です。日本の政策決定過程に関する問題です。経済分野には経済財政諮問会議がありますが、政治、安全保障、防衛、外交、危機管理といった分野でそうしたアドバイザー機能が存在しないのです。これは経済諮問会議だけの片肺飛行も同然です。
増田:卑近な話ですが、旦那が浮気をするのには、奥さんにだって悪い部分があるように、日本がアメリカにやるべき事をしないとアメリカに逃げられてしまうのではないでしょうか。
森本:他所に行くのならまだいいのですが、面従腹背で腹の中で裏切っている状態が困るのです。
増田:夫婦間の信頼、日米相互信頼が大事ですよね。私はアメリカの議員さんたちと話す機会が度々あるのですが、「この問題は日本の誰に話したらいいんだ?」などとよく聞かれます。
森本:日本には司令塔が無いんですよ。
増田:日米アドバイザー・グループのようなものを作るべきではないですか。
森本:賛成です。しかしその前に日本のメッセージを求める機能が必要です。
たとえばアメリカはINSS(国家戦略研究所)が提案した、いわゆるアーミテージ・レポートで、日本に政治、経済、安全保障、憲法に対する要求を突き付けてきます。日本は個々の要求を感心して読みながら従っています。そうではなくて日本側からアメリカへのアーミテージ・レポートがあって然るべきです。日本に確たるメッセージがあって初めて日米合同アドバイザー・グループのようなものが機能するのです。日本に国家戦略、外交戦略がないまま日米グループを造っても日本の混乱ぶりをアメリカに晒すだけです。
増田:強烈に国益を追求するアメリカに対して日本の国論があいまいだと思いますが、、
森本:アメリカはあらゆる要素を内在していますから、「これがアメリカだ」と一言で言えるほど生易しい国ではありません。私が最近感じるのは、日本の社会の中で、明らかに知覚の異なるグループがかつてないほど顕在化している、ということです。一つには、非常にナショナリスティックな感情で中国、韓国を非難して、返す刀でアメリカを非難する人々が増えていることです。一方では恐ろしいほどリベラル、と言ってもアメリカのリベラルとは違いますが、非武装中立・反米主義を本気で主張する集団です。始末が悪いのは、メディア、学者、オピニオンリーダー達にその種の人々が多数生息していて、しかも声が大きい。冷戦時代の社会主義者の主張を平然と唱えているのです。両者に挟まれた真ん中に、プラグマティックな現実主義者がいて、これが現下の政策に一番近いグループとしてサイレントマジョリティを形成しています。私もその一人ですが、アメリカと話す時は右でも左でもない真ん中にいる人々がきちんとアメリカを捉えなくてはならない。右と左が勝手にアメリカを論じるから世論形成が出来なくなっているのです。
増田:日本人が不勉強ということもある。
森本:おっしゃる通りですが、日本人は感覚的な議論を好む傾向がある。アメリカは武力を行使して他国に自分たちの価値観を押し付けると言いながら、ではテロはどうして無くすのかと聞くと途端に黙ってしまう。具体的な政策に踏み込む手前で止まってしまう。現実政治の中に入ろうとしない。外務官僚は何でも話し合いで問題が解決できるという外交万能主義に陥っている。いざと言う時には軍事力を使う事態を覚悟することから外交は始まります。他国の攻撃を甘んじて受けると言う考えでは外交は出来ない。ですから日本は外交が出来ないのではなく、そもそも外交も安全保障も分かっていないと言わざるを得ません。
増田:日本の外交ですが、「大人の外交」、つまり本音と建前の感覚が無いように感じられるのですが、、
森本:外交とは本音の部分は決して表には出さないものです。本音は政治を行う者が分かっていればいいのです。
増田:表と裏があってはじめてコインになるので、表だけではフェイク(偽)です。日本では情報開示の誤解があり、裏まで見せろと主張するのが当たり前になっていますが、、。
森本:日本の場合、もう一つの問題は秘密保護法が欠如していることです。国家公務員には国家公務員法100条の規定があるのですが日本の国会議員にはありません。日本の政治家が米国防省でCIAのブリーフィングを受けた場合、その秘密を守る義務はないのです。だから同盟国の政治家と言えどもアメリカは非常な不信感を持って肝心な情報を出しません。このままですと日米同盟をも傷つける危険性があります。
増田:これは忌々しき問題ですね。
森本:私が大使館に赴任していた時、国防省の役人が国会議員にブリーフィングする際、「今度の議員にはどの辺まで話したらいいんでしょうね」と言うことを必ず検討したものです。一級のCIA情報など日本の国会議員には到底ブリーフィング出来ません。こういう状況ですから日米の政治家の間で本音の対話は出来ません。
増田:対話をするにも外交戦略が無くては、、。アメリカにはNSC(国家安全保障会議)がありますが、日本も同様の機能を政治の中核にすべきと思いますが。
森本:その通りです。しかし現状では経済諮問委員会だけですから、最重要なエネルギー安全保障の議論さえ出来ません。この問題は経済だけでなく、安全保障、防衛、危機管理等あらゆる問題のトータルな政策として立案されるべきで、単に原油価格の議論ではないのです。さきほど申し上げた通り日本の政策決定プロセスは片肺機能です。政策決定の機能不全の最たる例が在日米軍再編成協議です。アメリカは日本の首相がころころ変わるのはいいですが、真の交渉相手が全く見えない。そこでアメリカのほうから交渉の秘密情報をマスコミにリークして、新聞等に書かれた記事を既成事実にして日本に圧力を掛けるような手に出てくるわけです。そうすると日本側もリークして交渉に利用しようとする。このように両国が不信を拭えないままではやがて沖縄は大問題化するでしょうね。
増田:今日はありがとうございました。日米関係の問題点、政策決定機能の欠如問題、真の外交とは何か、国論を阻む感覚社会、国防意識、政治と秘密保護法等々日本の為になる貴重なお話しを賜り誠にありがとうございました。
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