第837(2013年6月5日号)

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「資本の意志」の心変わりか?

アダム・スミスの「見えざる手」と増田俊男の「資本の意志」の違い

「資本の意志」とは15年前に私が作った「造語」である。イギリスの産業革命以来のモノ造り主導経済下における需要と供給のマッチング原理となったのがアダム・スミスの「見えざる手」である。それに代わる20世紀後半から21世紀のマネー(金融)主導経済の見えざる主導力を「資本の意志」と名付けたのである。モノ造り中心時代の経済では常に需要が供給を上回り経済成長が続いた。ところが20世紀後半から供給が需要を上回り始めた為、金融緩和で仮需要を喚起し、必要以上の実需を創造しなければ、供給過剰で不況に陥る時代になったのである。今日の経済成長は仮需要依存の金融政策依存型になっている。
結果、国家の経済政策は財政から金融政策に重点が移ることになったのである。
今日の世界経済での話題の中心はFRB(連邦準備理事会=アメリカの中央銀行)のバーナンキ議長であり、ECB〔欧州中央銀行〕のドラギ総裁であり、日銀(日本銀行=日本の中央銀行)の黒田総裁である。日米欧の財務大臣の名前を聞かれて答えられる人は稀である。


ではアダム・スミスの「見えざる手」と増田俊男の「資本の意志」の違いは何か。
「見えざる手」の経済結果は常に1+1=2であるのに比べ「資本の意志」の経済結果は1+1= 3であったり、時には5になったり、また時には1+2=‐3(マイナス3)になったりする。
「見えざる手」は確実性があり、「資本の意志」は不確実である。今日の市場が常に”Uncertainty”(不確実性)と言われる所以である。

「資本の意志」の心変わり

「5月は売り逃げの月」と言われながら、NY株は5月になってから高値更新で2007年の最高値14,200ドル台を突破し、15,395ドルまで上げた。
ニッケイも、「5月は利益確定の月」と言う私のアドバイスにまるで逆らうかのように5月23日15,942円をつけ16,000円に接近したがその直後、まるで私の顔を立ててくれるかのように1,114円の暴落となり、その後も下げ続けついに6月4日終わりは13,533円、高値から15%の下げである。
一方NY市場も前述の高値15,395ドルから6月4日は15,177ドルまで下げたが、高値から1.5%の下げにとどまっている。
ニッケイの暴落とNYダウの下げは「一本調子で上げてきた調整である」が市場の一般論。何でも過剰になれば調整されるのは自然の理だが、私は、今回の日米株価の下げについて「資本の意志」から見た「本質論」を掲げて欧米のシンクタンクに発信している。
株価も為替も金利も物価も「資本の意志」次第であるとし、面白い解説を展開している。
資本には自らを最も安全に、最も効率的に増殖する強い意志がある。
資本が増殖しようとする為の「場」は世界の基軸通貨である「ドル市場」(NY市場)。
ドルは「資本の意志」の身代わりであり他の通貨も市場も「資本の意志」の対象外である。
「資本の意志」を知るには「資本の意志」に従って活動しているFRBのバーナンキ議長を見ていれば分かる。
資本の増殖とは@「株式配当」(Dividends)、A「国債利回り」(Interest)、B「株・債権の値上がり」(Appreciation)である。「安全第一」の下で「資本の意志」が@、A、Bを求めながらどのように資本を増幅させ(金融緩和させ)ながら、資本をいかなる市場に移動させてきたかを知れば、2008年の不況突入から今日までの株価、為替、国債価格と利回りの変化とその理由が手に取るように分かる。
2008年からの動きは省略するが、2012年からNY株価が急速に上昇したのは、アメリカ経済が着実に回復して不況への逆行があり得なくなったことから利回りは低くても安全であった国債市場や商品市場(商品には金利も配当もない)からリスク市場(株式市場)の株価収益率の高い優良株(S&P)や値上がり期待の金融、テクノロジー銘柄へ資金が流れた為である。ここ数日のNYの下げの中身を見ると配当性向の高い優良株が中心になっていることが分かる。FRBが買う以上に国債が売られ株式が買われてきた為10年物米国債の利回りが遂に2.16%の最高値を付けてきた。株式より安全な国債の利回りの方が株式配当利回りより高くなったら「資本の意志」の「気が変わる」のではないだろうか。さて、「資本の意志」の気が変わったらどうなる?
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