誤解に満ちた円高騒動
「15年ぶりの円高が日本経済を直撃している」というが本当だろうか?
「円高は貿易立国の日本にはマイナス」という間違った固定概念が日本市場を支配している。15年前の日本経済と今日を事実に基いて比較すれば今日の日本市場を動かしている多くの固定概念がことごとく過去のものであり、もはやあり得ないものであることが分かる。
1.輸出企業の為替変動に対する耐久力
日本の輸出入業者は為替先物予約などで為替変動に対応しているので変動リスクはほとんどなくなっている。「1円の円高は100億円の損」などと騒がれているのは単細胞的議論で大間違いである。
2.日本の主な輸出企業は海外に拠点(子会社や支社)を持ち原材料や半製品は自社企業グループ間取引になっているので為替リスクは吸収されている。
3.15年以来日本の国内企業物価は7.4%下落しているので、仮に今の為替レートが1995年4月19日と同じ1ドル79.75円であったとしても日本の国際輸出価格はまだまだ1995年より低いことになる。1995年以来の貿易相手国の通貨の変動率を加重した実質実効為替レートは現在1995年(79.75円)より30%安い計算になる。つまり1ドル55.82円になってもおかしくないと言うことであり、現在84−85円は超円安である。
4.日本は加工貿易を基本にした貿易立国との概念がある。しかしこれも過去の話である。世界銀行によると(2008年)輸出入のGDP(国内総生産)比の全世界平均が52.5%であるのに対して日本はわずかに31.5%でしかない。世界190カ国中最下位から7番目である。日本が国際貿易国という概念は大間違い!日本は貿易を通じての世界とのリンクが最も低い国である。
5.1990年台のプラザ合意以来の円高で日本の製造業は海外進出を展開してきた。内閣府の調査(2010年)によると海外で現地生産を行う企業の割合は1990年度に40.3%であったのが2009年には67.5%に増加している。製造業全体の現地生産率は1990年の4.6%から2009年には17.8%になっている。
6.円高は企業の海外進出を加速させ雇用の空洞化をもたらすと言われている。これもナンセンスである。かつて経済産業省の海外事業活動基本調査で2001年に270万人だった現地法人の雇用が2003年に350万人になったと発表した時、たまたま日本国内の完全失業数が350万人だったことから「雇用の輸出」という言葉が生まれたにすぎない。これはまったくの誤解である。
同じ経済産業省の調査で2005年から2008年にかけて海外現地法人の雇用数は436万人から452万人に増えたが、同じ時期日本の本社の雇用は394万人増加している。海外雇用増は即国内雇用増に繋がるのである。
7.海外直接投資の収益が本社の経常益に占める割合は24%に達している(2009年)。日本企業の経常益の2割前後は海外の収益と考えていい。
最近の経済グローバル化で世銀はGDPに代えて(GNP:国民総所得)を使う。海外収益を反映する日本のGNPは95年以来GDPを上回り2008年にはGDPより4%も上回った。日本はGDPのかい離幅では世界一である。円高はかい離率を広げ収益を増やすからそれだけ配当に回るのだから株価にプラスに働くのは当たり前のことである。
以上の事実でお分かりのように日本の市場がいかに事実無根の固定概念に振り回されているかが分かったはず。しかし投資家が間違った概念を信じれば市場は間違った方向へ動く。しかし間違った動きの期限はSeeing is believing (百聞は一見にしかず)で、来年の3月決算をSeeing (見る)とすべての間違った概念が吹っ飛んでしまい、雑音が収まり、「いいものが良くなる」。
|